“The ownership of English”の続き

さて先日の記事の続きで、

•Saito, A., & Hatoss, A. (2011). Does the ownership rest with us? global english and the native speaker ideal among japanese high school students. International Journal of Pedagogies & Learning, 6(2), 108-125.

こちらの論文のまとめしたいと思います。

背景

基本的な立ち位置としては、Matsuda (2003)とほぼ同じで、英語使用の世界的な広まりが学術界では広く議論されているなかで、日本の現状はまだまだその状態にはいたっておらず、巷でよく聞かれる「ネイティブスピーカー信仰」(この言葉が本文の冒頭で出てくる英語表現の適切な訳語ではないと思いますがこの文脈では一番しっくりくると個人的に思っています)のようなものが日本の高校生にも影響があるかというの扱った量的研究。Matsuda (2003)では、その結果の一般化の可能性が非常に限られていたという点を考慮し、より日本の高校生一般に実験結果を反映できるように研究が計画されています。

冒頭部分では、”Native speakership”という言葉が使われていて、日本における「ネイティブ礼讃」みたいなものの例として、英会話学校などの宣伝文句としてよく聞かれる「ネイティブスピーカーの英語」、「本物の英語」そして「ネイティブスピーカーの講師」といった言葉が挙げられています。しかしながらこのような思想は、非英語母語話者の英語やあるいは非英語母語話者そのものに対しての否定的な印象を助長している可能性があると指摘しています。また、外国語として英語を学習する学習者にとっては、英語母語話者の英語を目標にすることで多くの学習者にとってそれが到達不可能で不適切な目標となってしまい、自信を失くしてしまうという原因になるといった点も指摘されています。

リサーチクエスチョンは以下の3点。

  1. Do Japanese high school students’ attitudes differ towards native and non-native varieties of English?
  2. Do their motivation differ in the native speaker context and in the lingua franca context?
  3. Do their (temporary and short) visits to an Anglophone country1 affect their attitudes and motivations?  (p.111)

 さて、実験結果の解析に入る前に、理論的枠組の検証が行われています。まず”language attitudes”について、この研究では、学習者の英語の種類に対する”attitudinal disposition (AD)”と英語学習に対する”motivational dispositions (MD)”から成るものであると定義しています。また、Gardner & Lambert (1972)を引用し、MDを構成する要素をさらに”integrative orientation”と”instrumental orientation”の2つに分けています。前者は、言語学習によって他言語のコミュニティの一員になりたいというような願望のことで、後者は外国語の知識で社会的に認められたり、経済的な利益を得たいというような願望を指します(pp.111-112)。しかしながら、第二言語習得における動機付けは、単純にこの2つの要素で説明されるわけではなく、先行研究から英語母語話者コミュニティの認識が欠けていたとしても言語学習がおこなわれうることや(Warden & Lin, 2000; Yamashita, 2000; Lamb, 2004; Ladegaard & Sachdev, 2006)、「統合的志向性」と「道具的志向性」を完全に区別することは非常に難しいこと(Kimura et al., 2001; Lamb, 2004)などの注意点を挙げています。そこで、この研究では、MDをネイティブスピーカーコンテクストと、リンガフランカコンテクストという2つの指標で調べることにしています。つまり、2志向性×2コンテクストという構成です(質問紙の構成については後述)。

加えて、先行研究では、滞在期間の長さや、ネイティブスピーカーとのコミュニケーション量とlanguage attitudesの関係については一貫した結果が得られていないということは指摘しつつ、海外滞在経験の影響についても本研究における周辺的な対象に設定しています。

参加者

参加者は東日本の地方にある公立と私立の2校から175名の高校生(2年生150名、3年生25名)が選ばれました。この学校の卒業生の過半数が大学に進学しており、生徒たちは入試の重要な科目として英語を学習するように指導されていたようです。Matsuda (2003)の被験者と違い、非日本語話者との接触は最小限で、さらに複言語的背景をもった生徒はいませんでした。Anglophone countryへ行ったことがある生徒は全体の22%で、教科としての英語学習歴は最低で4年。

方法

3つのパート(メイン2パート+補助的質問)からなる質問紙調査。

  1. ADについて。UK, US (inner circle), India, Singapore (outer circle), Japan, China (expanding circle)の6種の英語について、それぞれuncool-cool, unimportant-important, lacking prestige-prestigious, powerless-powerful, unpopular-popular, unfashionable-fashionableの6つの観点で1-5の5件法。これにより、それぞれの種について肯定的・否定的態度であるかを調べます。
  2. MDについて。統合的志向性と道具的志向性のそれぞれについて8項目。”Studying English is important for me to…”のあとにすべての項目がつながるようになっています。例えば”understand cultures of”のような項目があり、そのあとにAnglophone country/non-Anglophone countryの2とおり。つまり、統合的志向性の8つの項目は実質4つの質問で、それがAnglophoneとnon-Anglophoneのペアで聞かれるために合計8項目となっています。道具的志向性についても同様で、4つの質問がAnglophoneとnon-Anglophoneの2パターンあり、合計8項目。MD全体として16項目あり、英語学習の動機づけについて調べています。
  3. 性別、年齢、言語的背景などの情報を得る目的の質問があとに続いています。

手順と結果

えっとSPSSを用いた統計的検定が行われているわけですが、僕の個人的な統計的検定の知識を整理するために少し詳しく(本文では言及されていないことも含めて)書いていこうと思うので、ざっと読み流していただいて結構です。

まず、この研究はあるサンプル(高校生175名)のデータをもとに、日本の高校生という母集団の傾向を予測するものなので、推測統計になります。また、質問紙調査の結果をもとに、その回答傾向から学習者の英語の各種に対する態度や英語学習の動機づけの傾向を仮説に基づき明らかにする目的があり、検証的因子分析という方法が取られてます。サンプル数の明確な規準はないものの、175名という人数は十分であると判断します。ただし、サンプル数が多くなりすぎると統計的優位な差が出やすくなるので注意も必要です。また、5件法は実質的には名義尺度であり、因子分析を行うためには間隔尺度以上を用いる必要があるという要件を満たしていないように思われますが、5件法以上の順序尺度データは間隔尺度とみなしても実質的に結果に大きな影響はでないとされています。

この研究ではTypeⅠのエラー(本当は有意差がないのに有意差があるとしてしまうこと)を最小限にするために有意水準はα=0.01に設定されています(p.113)。次に、データが正規分布になっているかの確認です。歪度(skewness)と尖度(kurtosis)が0の場合が綺麗な正規分布で±2の範囲に収まっていれば、そのデータはおおむね正規分布をなしていると考えられます。Appendix 2の記述統計量を見ると、どの項目もこの規準を満たしていると判断できるので、分析を続けることができそうです。因子の推定には、最尤法(maximum likelihood method)が用いられ、加えてt検定がすべてのリサーチクエスチョンに対して用いられています(p.113)。

 

まず、attitudeの項目において用いられた6つの項目が英語の各6種それぞれにおいて一貫した概念を測定しているか(一次元性)の確認が行われます。相関行列表は載っていませんが、”Inspection of the correlation matrix revealed the presence of all coefficients ranging from 0.345 to 0.861…”(p.114)ということです。さらに、Kaiser-Meyer-Olkinのサンプリング適正規準は0.6で普通(参照:因子分析の適用例)、そしてBartlettの球面性についての検定も”statistical significance”という結果になったようです(p.114)。

続いて、6つの英語の各種類について最尤法による因子の検証が行われています。Table1の因子負荷量を見ると各種ごとに、どの項目も絶対値で0.6を超える大きな負荷が3つ以上あり、Figure1-6のスクリープロットを見ても、2のところで大きく落ち込んでいるので1因子解だと判断できます。2 また、クロンバックアルファは”0.876-0.944″という高い信頼係数が得られたため、これらの質問項目の一次元性が確認され、そしてそのスコアを集計することで、「学習者の各英語の種類に対する肯定的・否定的態度」の検証をすることができそうです。

Table2には質問紙調査から得られた回答を数値化して合計した、各英語の種に対するADの記述統計量が掲載されていています。また、Figure7にはその平均値(mean)の棒グラフがあります。これを見ると、平均値の高い方からUS, UK, Singapore, India, China, Japanという順に並んでいて、どうやらUKとSingaporeの間に大きな差がありそうだという予想ができます。そこで、UK EnglishとSingapore Englishの平均を比べる対応のあるt検定を行なっています。結果はt(162) = 13.18, p <0.01で統計的に有意な差があると結論づけています。さらにUKとUS間、SingaporeとJapanese間でも同様のt検定を行なっており、前者がt(164) = -4.53, p <0.01、後者がt(165) = 3.28, p <0.01とどちらも統計的に有意な差があることがわかりました。

次に動機づけ(MD)の因子分析です。質問紙上では統合的志向性と道具的志向性に分けられていた8×2の計16項目を、それぞれネイティブスピーカーコンテクスト(NS)とリンガフランカコンテクスト(LF)も8×2に組み直して検証的因子分析が行われています。さきほどと同様に、まず相関行列表を見て(載ってません)、相関係数が例外的に1つだけ低い0.286という値を除いて高く(0.341-0.861)、KMOはADの場合と同様に0.6で、Bartlettの球面性についてもクリア。Table3に示されている因子負荷量を見ると、ネイティブ・リンガフランカどちらもすべての項目が想定される1因子に対して0.6以上であり、因子寄与は前者が58.7%で、後者が64.9%でした。またFigure8と9のスクリープロットからも1因子解であると判断でき、さらにクロンバックアルファもNSでは0.810で、LFでは0.903と高い信頼係数が得られました。

よって、MDに対する質問項目の一次元性が確保されていると判断し、これ以降の分析では統合的志向性と道具的志向性というラベルをとり、NSとLFにおける動機付けの比較がされています。先ほどと同じように、質問紙の回答をスコア化して合計したものの記述統計量がTable4に示されています。この両者の平均を比較するためにt検定を行います。結果は、t(164) = 13.76,  p <0.01で、NSにおけるモチベーションのほうが統計的に有意に高いことがわかりました。

最後に、海外の滞在経験が、ADとMDの双方にどう影響があるのかを調べる対応のないt検定を行なっています。まずADについては記述統計量がTable5に示され、Anglophone countryに行った経験のあるグループとないグループでは英語の各種に対しての態度は、統計的に有意な差がないことがわかりました(本文中に数値の記述はなし)、一方で、MDに関してはAnglophone countryに行ったことがあるグループのほうが、無いグループよりもリンガフランカコンテクスト(LF)において統計的に有意な差があることがわかりました。t検定の結果は、t (98) = 3.61,  p <0.01で、効果量は=0.83で、効果量大と判断できます。しかしながら、NS(ネイティブスピーカーコンテクスト)では経験の有無には統計的に有意な差は見られませんでした。

筆者はこの研究における問題点として2点挙げています。1点目は、質問紙調査による回答の引き出し方が直接的な方法であった点。これによって、被験者は自らが普段から意識している考えにもとづいて回答したことになり、例えば録音した音声を聞かせるなどの間接的な方法を使い、被験者の潜在的意識を引き出せば、今回とは違った結果が得られた可能性を指摘しています。2点目は、”Anglophone country”という用語についてです。この用語が英語が話されている国という意味である旨の説明は被験者にされていたものの、用語の定義に被験者間で違いがあった可能性が指摘されています。3

結論と示唆

質問紙調査の分析結果から、以下の3点が明らかになりました。

  1. 日本の高校生は英語母国語話者の英語(UKとUS)を、その他非英語母国語話者の英語に比べてより肯定的な評価をしている。その中でも、USが一番肯定的である一方、日本人の英語(Japanese English)に対してもっとも否定的。
  2. 日本の高校生は、グローバルな英語使用のためよりもむしろ”intra-Anglosphere currency and utility”のために英語を学習している(p.118)。
  3. Anglophone countryでの滞在経験は、リンガフランカコンテクストに対する英語学習の動機付けに効果がある可能性がある。
1に関しては、Matsuda (2003)のケーススタディの結果とも一致しています。2点目も論文のタイトルにあるような”native speaker ideal”を裏付けるような結果となりました。興味深いのは3点目で、Anglophone countryの滞在経験は、ネイティブスピーカーコンテクストではなく逆にリンガフランカコンテクストに対する動機づけを高める効果があることがわかりました。著者は、海外で、非英語母国語話者として英語を使用することで、リンガフランカとしての英語の機能や、彼らの第二言語のアイデンティティへの認識が高まり、それが結果的にリンガフランカコンテクストに対する英語学習の動機づけを促進したのではないかと推測しています。しかしながら、滞在経験の有無だけでは不十分であり、滞在の目的や期間の長さ、その土地の文化や人々との関わりの量などの情報を集めたさらなる実証研究が必要であると述べています。
以上のような結果は、Matsuda (2003)でも指摘された日本の英語教育の問題点を浮かび上がらせています。日本の高校生には、いわゆるグローバルなコミュニケーションのための英語使用という観点が実感として伴っていない、すなわち、「そういう話は言われているのでなんとなくそう思っている」程度の認識しかないという可能性が高いということです。
著者は、”native speaker ideal”がどこからきているのか、という点について、メディアの影響など様々な要因を列挙しつつ、Matsuda (2002)の指摘に同意し、あくまで推測の域をでないと譲歩しつつも教材や教授法が大きな要因になっている可能性を指摘しています。しかしながら、本研究で見られたような高校生の傾向は、高校の英語学習において形成されたというよりも、英語学習の開始時期である中学生の早い段階で形成されたと考えられると著者は付け加えています。そして、最後はこの一文で締めています。

If the pedagogy of this sort is constructed to be desirable in the Japanese EFL context, such intervention should honour the local language environment of the vast majority of learners of English as a foreign language where an exonormative model holds sway at present, reflecting the language globalization process underway (p.119).

注1. Anglophoneとは通常二言語以上が話されている国における英語話者(例えばカナダの英語話者)を指すために使われる言葉ですが、ここではAnglophone countryを、”a region where English is used as the primary language in society” (p.111注)という意味で使っているようです。

注2. 外国語教育研究ハンドブックでは、スクリープロットを見て、「グラフの急勾配になっているところまでの因子数を採用します。」(p.169)という記述があり、紹介されている図12-2では2因子の箇所で固有値が大きく減少し、そこからはなだらかになっています。そして、このグラフから2因子解と決定されているのですが、この論文に掲載されているスクリープロットはすべて図12-2と同じような傾向があるにもかかわらず、1因子解であることの証拠としているのですが、これは著者がすでに1因子解であるという仮説のもとに分析しているからであって、2因子のところで大きく落ち込むスクリープロットは2因子、あるいは1因子の可能性もあるということなんでしょうか?

注3. このAnglophone countryという用語が日本語でどのように提示されたのかについての言及はなく、この用語の定義である”where English is primarily spoken”というのが英語が母国語として用いられている国に限られるのかあるいはいわゆるouter circleの国も含むのか等曖昧な点もあります。

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