MS Word Online vs. Google Docs

はじめに

昨日学部教授会前のFDで,LMS利用やOffice365などを授業に利用することについてのお話がありました。その中で,WordやPowerPointを共有することによって協働的ライティングやグループプレゼンをやらせるというような例もありました。質疑応答で,Google Docs(以下,Docs)とWordはどちらがいいのかという話も出たので,個人的な意見を書きます。はじめに結論を言ってしまうと,所属機関が契約していてGoogle Classroomを使える人はDocs一択かなと思います。また,個人利用の場合でも,学生にGoogleアカウントを取得させてGoogle Classroomを利用することに抵抗がなく,それ自体を面倒だと思わないという方もDocsだと思います。以下,いくつかの観点でWordとDocsを比べてみます。一つお断りしておくと,この記事を読み終わっても結局は自分が使い慣れている方を使うという選択を取る人が多数だと思います(それだけ自分が慣れていないものを使い始めるのはハードルが高い)。私はWord Onlineを利用していますが,そのことについては過去に詳しく書いたのでそちらをお読み下さい。

Word Onlineを活用したライティング活動

比較の観点になりそうな部分

次の観点がどちらを選ぶかを決める際のファクターになるかなと思います。

  • アカウント作成
  • ファイルコピー
  • 外部連携(英語ライティングのときのみ)
  • 変更履歴

以下,順番にそれぞれの観点を詳しく説明していきます。

アカウント作成

これは自分の所属機関の状況次第でしょう。所属機関がOffice365の包括契約を行っているのであれば,学生は自分の大学メールアドレスでアカウント登録がすでにされている状態ですので,新しくMicrosoftアカウントを取得することなくOffice製品がオンラインで利用できます(オンライン版はデスクトップ版より機能は制限されます)。一方で,所属機関がGoogleと契約しているのであれば,大学メールアドレス=GoogleアカウントになるはずなのでGoogle DriveとDocsやスプレッドシート等が使えるようになっていると思います。この状態になっているということは,教員側は自分の授業に参加している学生のアカウントを知っている状態と等しいわけですから,大きなメリットになると思います。もしもMicrosoftアカウントやGoogleアカウントを個人で取得させた場合,教員は誰がどのアカウントなのかを把握して管理する必要が出てきます。人によってはメールアドレスやアカウント名から本名を判断できない場合もありますし,アカウント取得時に指示しても守らず好きな名前で登録してしまいアカウント名の変え方がわからなくなるなどのトラブル発生地帯でもあります。私の所属機関である関西大学はOffice365の契約ですので,私はWord Onlineを使用しています(過去記事)。そういう状況の人がDocsを使う場合というのは,その他の3つの観点で得られるメリットがこのアカウント作成のデメリットを上回る場合でしょう。

ファイルコピー

これは,Google Classroomの機能ですので,Docsだけ利用しているという方が得られるメリットではないと思います(Docsだけでもファイルコピーする方法をご存知の方がおられましたらコメント欄でお知らせください)。また,そもそもファイルコピーが必要ないという方もここは特に重視されない点かなと思います。

ファイルコピーがそもそもなぜ必要なのか

私は英語ライティングの授業でWord Onlineを使いますが,必ず教員が作ったテンプレートをシェアするようにしています。これにはいくつか理由があって(過去記事の「授業前の準備」のセクション参照),1つ目はフォーマットを統一したいということがあります。口頭や書面でフォーマットに関する指示を出しても,統一できなかったり設定の仕方がわからずにそこで授業の時間を空費してしまいます。それならば,こちらで予めフォントはTimes New Romanで12pt,行間は2行,タイトルは中央寄せ,インデントは1字字下げ,のように設定してしまったものを使わせたほうがあとあと添削入れる際に楽なわけです(テンプレ使わせても勝手に変えてしまう学生もいますけど)。もう1つは,ファイル管理の便利さです。例えば,学生側が新規ファイルを作成し,指定したファイル名をつけて教員とシェアするようにさせるとします。すると,教員側からは,「共有ファイル」という形でシェアされるため,各学生からシェアされた共有ファイルをフォルダでまとめて管理したりすることができません(Google DriveでもOneDriveでもできないと思いますがこの方法をご存知の方がいたらコメント欄でお知らせください)。これができないと,課題ごと,クラスごとにまとまった状態でファイルの閲覧ができないため,非常に不便です。使うのが学期に1度でグループごとのファイルが二桁いくかいかないかというような場合は特に問題ないかもしれませんが。さて,以上の理由から,教員がファイルを作って共有するという前提があるということをご理解いただけたかと思います。しかし,教員がファイルをシェアしようとしたとき,1つのテンプレだけを作って共有してしまうと,それにクラス全員が書き込もうとする状態が発生します。これを回避するには,テンプレファイルをコピーして保存させるか,あるいはあらかじめ学生全員分のテンプレファイルを作っておくかということになります。前者の方法を使うと,コピーしたものを再度教員と共有することになるため避けたいところです(前述の学生から教員にファイルシェアすることによる問題が発生するため)。よって,教員側で学生全員分のテンプレファイルを用意する必要が出てきます。ファイルのコピーを作る方法自体は何も難しくありません。シェルスクリプトやコマンドプロンプトでできる人には朝飯前でしょうし,それができなくてもMacならAutomatorがあります。また,受講生が100人でもCtrl (or command) + Cをたった100回連打するだけで100個のコピーファイルが作れます。しかしながら,単純にファイルをコピーするだけでは,”XXXのコピー1.docx”とか,”XXX(1).docx”のような連番ファイルしか作ることができません。できれば,ファイルに名前をつけてあげたいところですが,すべて手作業でファイル名変更するのは絶対にやりたくありませんよね。じゃあ,といって,学生それぞれに個別にファイルを共有することにしたとします。Aさんには”XXXのコピー1.docx”を共有して,”XXX_A.docx”とするように指示し,Bさんには”XXXのコピー2.docx”を共有して”XXX_B.docx”とするように指示したとします。2人ならいいですが,これを100人にやるなんて考えられませんよね(ライティングで100人なんてありえないと思いますが15人でもやりたくないです)。

Google Classroomの便利さ

Google Classroomを使えば,上記の煩わしさは一切ありません。なぜなら,テンプレファイルを作ってシェアする際に「クラス全員にコピーを作成」というオプションが使えるからです。この設定でDocsのテンプレファイルを課題としてストリームに投稿すれば,個別にコピーを作成してシェアする必要はありませんし,ファイル名も学生の名前のついたものができます。便利ですばらしい。よって,Google Classroomを使っているならDocsを使うべきだと思うわけです。

Office365利用者でもファイルコピーはある程度簡略化可能

では,Office365利用者はどうすれば,ということになりますが,ファイルコピーと名前の変更はプログラミング言語を使ってある程度自動化させることができます。我田引水になりますが,下記の記事を参照していただければ,Rでファイルコピーとリネームができます。

[R] 同じディレクトリ内でファイルを複製する

一度スクリプトを保存すれば,あとはファイル名やディレクトリ名などの一部分だけ書き換えるだけで作業はできますので,テンプレ作成->ファイルコピー&リネーム->共有の作業は数分で可能です。

ただし,この方法がGoogle Classroom利用と決定的に違う点が1つだけあります。それは,共有する際にはフォルダごと共有するという方法を取らなければいけないという点です。Google Classroomでは,コピー&リネーム&個別共有を一括でできましたが,OneDriveの場合はLMS的機能はありません。よって,ファイル共有に関してはもしも個別に共有するのであれば1つずつ共有する必要があります。これを,クラス全員のファイルが入ったフォルダをまるごと全員に共有し,作業の際は自分の名前のついたファイルを開いて書くというようにすれば,共有の手間はほとんどありません。ただし,この状態では全員が全員のファイルにアクセス可能になっています。ここから生じうる問題に懸念がある場合には,地道に個別共有するか,Google Classroomの利用を検討すべきでしょう。

過去記事にも書きましたが,私は全員が全員のファイルにアクセス可能の状態をむしろ好ましいと思っています。なぜなら,私は授業で学生同士のフィードバックを頻繁に取り入れているからです。誰のファイルでも見れる状態でなければ,紙でやるときと同じようなピアフィードバックはできません。また,それ以外でも,自分のライティングが行き詰まったときに他の人のライティングを見て良いところを真似したりということで活用している学生もいます。私はこれをさせずに自分の力だけでやらせることのほうが良いとは思っていませんし,良いと思われるものはどんどん真似して取り入れていくというのが良いと思っています。ただし,すべて真似して良いということにはしていません。ファイルの閲覧が許されるのはライティングを書いて修正するプロセス(1つのタイプにつき数週間の期間)のみで,最終的に評価の対象となるものを提出させる際は過去のドラフトには一切アクセスできなくしています(注1)。ただし,何も見ずに書くのではそれまでの修正点が反映されなくなってしまうので,ドラフトにフィードバックが与えられたものをみてWritten Languagingをさせて,それをもとに最終稿を書かせています。

外部連携

次の観点は外部連携です。これは主に英語ライティングを念頭においていますので,日本語でのレポート作成やプレゼンファイル共有の場合は関係がないと思います。英語ライティングに便利なツールとして,GrammarlyやGingerといった自動文法・スペリングチェッカーがChromeやSafariなどのブラウザの拡張機能として提供されています。また,Writing Mentor(過去記事参照)もDocsのアドオンとして利用可能です。これらの外部連携サービスは,現状ではWord Onlineでは利用できません(デスクトップ版WordではGrammarlyとGingerは使えます)。つまり,こうした外部連携サービスを利用したいと考えていて,それが授業設計で重要な部分を占めているという場合には,残念ながらDocsのほうが良いということになります。もちろん,GrammarlyやGingerはウェブアプリとしてそれぞれのウェブサイト上でライティングをすれば(あるいはテキストをコピペすれば)チェック機能を使うことができます。よって,Wordを使うのであれば,書き終わったものをGrammarlyやGingerにコピペしてチェックし,修正したものをもう一度Wordにコピペするということで利用はできます。ただ,GrammarlyやGingerは書きながらフィードバックを与えてくれるところも利点の1つではあるので,その利点を活かせるDocsに軍配が上がります。

一つ注意しなければならないのは,Docs上でGrammarlyが利用できるようにするには拡張機能がブラウザに追加されていなければいけないという点です。もしも大学のPC教室で授業をしているとすれば,ブラウザに拡張機能を追加することが禁止されていたりするかもしれませんし,一度追加してもシャットダウンすれば削除されてしまい授業のたびに追加する必要があるかもしれません。ウェブブラウザとしてGoogle Chromeを使っていれば,Googleアカウントにログインしてどのマシンでも同じ環境設定のChromeを利用できるよう同期設定をすることでこの問題は回避できます。つまり,個人のPCで使っているChromeでGingerやGrammarlyが拡張機能として追加されていれば,大学のPCでChromeを開いたときにGoogleアカウントに同期することでいちいち追加する手間は省かれます(もちろん毎回Googleアカウントとの同期は必要になりますが)。

変更履歴

私が使っている環境では特にこれが必要になることはないのですが,複数人で1つのプロダクトを完成させるようなcollaborative writingやグループプレゼンの資料作りをやる際には重要な部分なのかなと思います。変更履歴の記録や表示については,Docsのほうが整理されているかなという印象です。また,Wordはオンラインでは変更履歴は見れません。Wordのデスクトップ版で変更履歴の記録をオンにした状態で学生と共有し,そのファイルをデスクトップ版で見れば変更履歴が見れるようです。オンラインでは,「変更履歴:オン」というのがページ下部に表示されるだけで,どこがどのように変更されたのかはわかりません。OneDrive上で,誰がいつファイルを編集したか,誰がいつコメントしたかのような情報は記録されていますし,変更が行われるたびにversionの情報は残るので,変更が行われる前のファイルをDLすることで前後の比較はできるようにはなっています。Docsの場合は変更の記録と変更箇所の表示などがすべてブラウザ上で完結するので,変更履歴を見たり,何がどう変化したかを観察したいという目的があるのであれば,Docsのほうが適していると思います。

まとめ

DocsとWordの2つの似たようなサービスについて,(a) アカウント作成,(b) ファイルコピー,(c) 外部連携,(d) 変更履歴,の4つの観点で比較しました。私がとりあえず思いついた点で比較したので,この他にも使う人によっては重視したいポイントや気になるポイントはあるのかもしれません。ご指摘いただければ∧私がやる気になったら,コメントいただければ追記するかもしれません(し,しないかもしれません)。結論としては,まず自分の所属している機関が契約しているサービスがどちらかというのが一つの大きな分かれ道です。授業に利用するのであればなおさら所属している機関が契約しているサービスを使うほうが良いかと思います。ただ,Docsのほうがファイルコピー,外部連携,変更履歴の点では便利です。したがって,最初にアカウント作成させる必要があるというデメリットよりもそれらのメリットのほうが大きいと考えるのであれば,Docsを利用するほうがよいでしょう。注意しなければならないのは,ファイルコピーはGoogle Classroomを使うことによって得られる恩恵であるという点です。外部連携や変更履歴についても,授業で利用するつもりであり,そのことが授業設計に極めて大きな影響を与えるならば,という条件付きで,Docsのほうが良いということです。ちゃぶ台返しみたいなことを言ってしまえば,オンラインで使えるドキュメント作成サービスをなぜ,どのような目的で導入するのか,ということがぼやけている状態の人にとっては,どちらを選ぶかを決めることも難しいということです。そして,これは授業の目標と密接に関連することです。結局はDocsもWordもツールですので,そのツールを何のために使うのかをまず明確にし,その上でどちらを使うほうが良いのかという判断をするということです。その際に,私がここで挙げたような観点が参考になればと思います。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注1. ずる賢い学生はアクセスできなくなる前にファイルをDLしたり写メを撮ったりするという可能性もゼロではありませんしそれを完全に防ぐことはできませんししていません。もちろん口頭では注意しています。

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