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MS Word Online vs. Google Docs

はじめに

昨日学部教授会前のFDで,LMS利用やOffice365などを授業に利用することについてのお話がありました。その中で,WordやPowerPointを共有することによって協働的ライティングやグループプレゼンをやらせるというような例もありました。質疑応答で,Google Docs(以下,Docs)とWordはどちらがいいのかという話も出たので,個人的な意見を書きます。はじめに結論を言ってしまうと,所属機関が契約していてGoogle Classroomを使える人はDocs一択かなと思います。また,個人利用の場合でも,学生にGoogleアカウントを取得させてGoogle Classroomを利用することに抵抗がなく,それ自体を面倒だと思わないという方もDocsだと思います。以下,いくつかの観点でWordとDocsを比べてみます。一つお断りしておくと,この記事を読み終わっても結局は自分が使い慣れている方を使うという選択を取る人が多数だと思います(それだけ自分が慣れていないものを使い始めるのはハードルが高い)。私はWord Onlineを利用していますが,そのことについては過去に詳しく書いたのでそちらをお読み下さい。

Word Onlineを活用したライティング活動

比較の観点になりそうな部分

次の観点がどちらを選ぶかを決める際のファクターになるかなと思います。

  • アカウント作成
  • ファイルコピー
  • 外部連携(英語ライティングのときのみ)
  • 変更履歴

以下,順番にそれぞれの観点を詳しく説明していきます。

アカウント作成

これは自分の所属機関の状況次第でしょう。所属機関がOffice365の包括契約を行っているのであれば,学生は自分の大学メールアドレスでアカウント登録がすでにされている状態ですので,新しくMicrosoftアカウントを取得することなくOffice製品がオンラインで利用できます(オンライン版はデスクトップ版より機能は制限されます)。一方で,所属機関がGoogleと契約しているのであれば,大学メールアドレス=GoogleアカウントになるはずなのでGoogle DriveとDocsやスプレッドシート等が使えるようになっていると思います。この状態になっているということは,教員側は自分の授業に参加している学生のアカウントを知っている状態と等しいわけですから,大きなメリットになると思います。もしもMicrosoftアカウントやGoogleアカウントを個人で取得させた場合,教員は誰がどのアカウントなのかを把握して管理する必要が出てきます。人によってはメールアドレスやアカウント名から本名を判断できない場合もありますし,アカウント取得時に指示しても守らず好きな名前で登録してしまいアカウント名の変え方がわからなくなるなどのトラブル発生地帯でもあります。私の所属機関である関西大学はOffice365の契約ですので,私はWord Onlineを使用しています(過去記事)。そういう状況の人がDocsを使う場合というのは,その他の3つの観点で得られるメリットがこのアカウント作成のデメリットを上回る場合でしょう。

ファイルコピー

これは,Google Classroomの機能ですので,Docsだけ利用しているという方が得られるメリットではないと思います(Docsだけでもファイルコピーする方法をご存知の方がおられましたらコメント欄でお知らせください)。また,そもそもファイルコピーが必要ないという方もここは特に重視されない点かなと思います。

ファイルコピーがそもそもなぜ必要なのか

私は英語ライティングの授業でWord Onlineを使いますが,必ず教員が作ったテンプレートをシェアするようにしています。これにはいくつか理由があって(過去記事の「授業前の準備」のセクション参照),1つ目はフォーマットを統一したいということがあります。口頭や書面でフォーマットに関する指示を出しても,統一できなかったり設定の仕方がわからずにそこで授業の時間を空費してしまいます。それならば,こちらで予めフォントはTimes New Romanで12pt,行間は2行,タイトルは中央寄せ,インデントは1字字下げ,のように設定してしまったものを使わせたほうがあとあと添削入れる際に楽なわけです(テンプレ使わせても勝手に変えてしまう学生もいますけど)。もう1つは,ファイル管理の便利さです。例えば,学生側が新規ファイルを作成し,指定したファイル名をつけて教員とシェアするようにさせるとします。すると,教員側からは,「共有ファイル」という形でシェアされるため,各学生からシェアされた共有ファイルをフォルダでまとめて管理したりすることができません(Google DriveでもOneDriveでもできないと思いますがこの方法をご存知の方がいたらコメント欄でお知らせください)。これができないと,課題ごと,クラスごとにまとまった状態でファイルの閲覧ができないため,非常に不便です。使うのが学期に1度でグループごとのファイルが二桁いくかいかないかというような場合は特に問題ないかもしれませんが。さて,以上の理由から,教員がファイルを作って共有するという前提があるということをご理解いただけたかと思います。しかし,教員がファイルをシェアしようとしたとき,1つのテンプレだけを作って共有してしまうと,それにクラス全員が書き込もうとする状態が発生します。これを回避するには,テンプレファイルをコピーして保存させるか,あるいはあらかじめ学生全員分のテンプレファイルを作っておくかということになります。前者の方法を使うと,コピーしたものを再度教員と共有することになるため避けたいところです(前述の学生から教員にファイルシェアすることによる問題が発生するため)。よって,教員側で学生全員分のテンプレファイルを用意する必要が出てきます。ファイルのコピーを作る方法自体は何も難しくありません。シェルスクリプトやコマンドプロンプトでできる人には朝飯前でしょうし,それができなくてもMacならAutomatorがあります。また,受講生が100人でもCtrl (or command) + Cをたった100回連打するだけで100個のコピーファイルが作れます。しかしながら,単純にファイルをコピーするだけでは,”XXXのコピー1.docx”とか,”XXX(1).docx”のような連番ファイルしか作ることができません。できれば,ファイルに名前をつけてあげたいところですが,すべて手作業でファイル名変更するのは絶対にやりたくありませんよね。じゃあ,といって,学生それぞれに個別にファイルを共有することにしたとします。Aさんには”XXXのコピー1.docx”を共有して,”XXX_A.docx”とするように指示し,Bさんには”XXXのコピー2.docx”を共有して”XXX_B.docx”とするように指示したとします。2人ならいいですが,これを100人にやるなんて考えられませんよね(ライティングで100人なんてありえないと思いますが15人でもやりたくないです)。

Google Classroomの便利さ

Google Classroomを使えば,上記の煩わしさは一切ありません。なぜなら,テンプレファイルを作ってシェアする際に「クラス全員にコピーを作成」というオプションが使えるからです。この設定でDocsのテンプレファイルを課題としてストリームに投稿すれば,個別にコピーを作成してシェアする必要はありませんし,ファイル名も学生の名前のついたものができます。便利ですばらしい。よって,Google Classroomを使っているならDocsを使うべきだと思うわけです。

Office365利用者でもファイルコピーはある程度簡略化可能

では,Office365利用者はどうすれば,ということになりますが,ファイルコピーと名前の変更はプログラミング言語を使ってある程度自動化させることができます。我田引水になりますが,下記の記事を参照していただければ,Rでファイルコピーとリネームができます。

[R] 同じディレクトリ内でファイルを複製する

一度スクリプトを保存すれば,あとはファイル名やディレクトリ名などの一部分だけ書き換えるだけで作業はできますので,テンプレ作成->ファイルコピー&リネーム->共有の作業は数分で可能です。

ただし,この方法がGoogle Classroom利用と決定的に違う点が1つだけあります。それは,共有する際にはフォルダごと共有するという方法を取らなければいけないという点です。Google Classroomでは,コピー&リネーム&個別共有を一括でできましたが,OneDriveの場合はLMS的機能はありません。よって,ファイル共有に関してはもしも個別に共有するのであれば1つずつ共有する必要があります。これを,クラス全員のファイルが入ったフォルダをまるごと全員に共有し,作業の際は自分の名前のついたファイルを開いて書くというようにすれば,共有の手間はほとんどありません。ただし,この状態では全員が全員のファイルにアクセス可能になっています。ここから生じうる問題に懸念がある場合には,地道に個別共有するか,Google Classroomの利用を検討すべきでしょう。

過去記事にも書きましたが,私は全員が全員のファイルにアクセス可能の状態をむしろ好ましいと思っています。なぜなら,私は授業で学生同士のフィードバックを頻繁に取り入れているからです。誰のファイルでも見れる状態でなければ,紙でやるときと同じようなピアフィードバックはできません。また,それ以外でも,自分のライティングが行き詰まったときに他の人のライティングを見て良いところを真似したりということで活用している学生もいます。私はこれをさせずに自分の力だけでやらせることのほうが良いとは思っていませんし,良いと思われるものはどんどん真似して取り入れていくというのが良いと思っています。ただし,すべて真似して良いということにはしていません。ファイルの閲覧が許されるのはライティングを書いて修正するプロセス(1つのタイプにつき数週間の期間)のみで,最終的に評価の対象となるものを提出させる際は過去のドラフトには一切アクセスできなくしています(注1)。ただし,何も見ずに書くのではそれまでの修正点が反映されなくなってしまうので,ドラフトにフィードバックが与えられたものをみてWritten Languagingをさせて,それをもとに最終稿を書かせています。

外部連携

次の観点は外部連携です。これは主に英語ライティングを念頭においていますので,日本語でのレポート作成やプレゼンファイル共有の場合は関係がないと思います。英語ライティングに便利なツールとして,GrammarlyやGingerといった自動文法・スペリングチェッカーがChromeやSafariなどのブラウザの拡張機能として提供されています。また,Writing Mentor(過去記事参照)もDocsのアドオンとして利用可能です。これらの外部連携サービスは,現状ではWord Onlineでは利用できません(デスクトップ版WordではGrammarlyとGingerは使えます)。つまり,こうした外部連携サービスを利用したいと考えていて,それが授業設計で重要な部分を占めているという場合には,残念ながらDocsのほうが良いということになります。もちろん,GrammarlyやGingerはウェブアプリとしてそれぞれのウェブサイト上でライティングをすれば(あるいはテキストをコピペすれば)チェック機能を使うことができます。よって,Wordを使うのであれば,書き終わったものをGrammarlyやGingerにコピペしてチェックし,修正したものをもう一度Wordにコピペするということで利用はできます。ただ,GrammarlyやGingerは書きながらフィードバックを与えてくれるところも利点の1つではあるので,その利点を活かせるDocsに軍配が上がります。

一つ注意しなければならないのは,Docs上でGrammarlyが利用できるようにするには拡張機能がブラウザに追加されていなければいけないという点です。もしも大学のPC教室で授業をしているとすれば,ブラウザに拡張機能を追加することが禁止されていたりするかもしれませんし,一度追加してもシャットダウンすれば削除されてしまい授業のたびに追加する必要があるかもしれません。ウェブブラウザとしてGoogle Chromeを使っていれば,Googleアカウントにログインしてどのマシンでも同じ環境設定のChromeを利用できるよう同期設定をすることでこの問題は回避できます。つまり,個人のPCで使っているChromeでGingerやGrammarlyが拡張機能として追加されていれば,大学のPCでChromeを開いたときにGoogleアカウントに同期することでいちいち追加する手間は省かれます(もちろん毎回Googleアカウントとの同期は必要になりますが)。

変更履歴

私が使っている環境では特にこれが必要になることはないのですが,複数人で1つのプロダクトを完成させるようなcollaborative writingやグループプレゼンの資料作りをやる際には重要な部分なのかなと思います。変更履歴の記録や表示については,Docsのほうが整理されているかなという印象です。また,Wordはオンラインでは変更履歴は見れません。Wordのデスクトップ版で変更履歴の記録をオンにした状態で学生と共有し,そのファイルをデスクトップ版で見れば変更履歴が見れるようです。オンラインでは,「変更履歴:オン」というのがページ下部に表示されるだけで,どこがどのように変更されたのかはわかりません。OneDrive上で,誰がいつファイルを編集したか,誰がいつコメントしたかのような情報は記録されていますし,変更が行われるたびにversionの情報は残るので,変更が行われる前のファイルをDLすることで前後の比較はできるようにはなっています。Docsの場合は変更の記録と変更箇所の表示などがすべてブラウザ上で完結するので,変更履歴を見たり,何がどう変化したかを観察したいという目的があるのであれば,Docsのほうが適していると思います。

まとめ

DocsとWordの2つの似たようなサービスについて,(a) アカウント作成,(b) ファイルコピー,(c) 外部連携,(d) 変更履歴,の4つの観点で比較しました。私がとりあえず思いついた点で比較したので,この他にも使う人によっては重視したいポイントや気になるポイントはあるのかもしれません。ご指摘いただければ∧私がやる気になったら,コメントいただければ追記するかもしれません(し,しないかもしれません)。結論としては,まず自分の所属している機関が契約しているサービスがどちらかというのが一つの大きな分かれ道です。授業に利用するのであればなおさら所属している機関が契約しているサービスを使うほうが良いかと思います。ただ,Docsのほうがファイルコピー,外部連携,変更履歴の点では便利です。したがって,最初にアカウント作成させる必要があるというデメリットよりもそれらのメリットのほうが大きいと考えるのであれば,Docsを利用するほうがよいでしょう。注意しなければならないのは,ファイルコピーはGoogle Classroomを使うことによって得られる恩恵であるという点です。外部連携や変更履歴についても,授業で利用するつもりであり,そのことが授業設計に極めて大きな影響を与えるならば,という条件付きで,Docsのほうが良いということです。ちゃぶ台返しみたいなことを言ってしまえば,オンラインで使えるドキュメント作成サービスをなぜ,どのような目的で導入するのか,ということがぼやけている状態の人にとっては,どちらを選ぶかを決めることも難しいということです。そして,これは授業の目標と密接に関連することです。結局はDocsもWordもツールですので,そのツールを何のために使うのかをまず明確にし,その上でどちらを使うほうが良いのかという判断をするということです。その際に,私がここで挙げたような観点が参考になればと思います。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注1. ずる賢い学生はアクセスできなくなる前にファイルをDLしたり写メを撮ったりするという可能性もゼロではありませんしそれを完全に防ぐことはできませんししていません。もちろん口頭では注意しています。

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Slackを用いた授業外ライティング活動の便利ワザ[Google Spreadsheet編③]

はじめに

下記の2つの記事の続きで,おまけ的なものですが自分の備忘録のためにも残しておきます(R編がなかなかスタートしないw)。

Slackを用いた授業外ライティング活動の便利ワザ [Google Spreadsheet編①]

Slackを用いた授業外ライティング活動の便利ワザ[Google Spreadsheet編②]

簡単に何をやっているのかをまとめます。Slack上で授業外ライティング活動をさせ,そこで書かれたものをGoogle Apps Scriptを使ってGoogle Spreadsheetに記録し,そこで個人の1週間あたりの産出語数を学生と共有するということをやっています。大まかな枠組みについては,上記の記事でカバーされていますが,今回は,「ちょっとかゆいところに手が届くといいな」くらいのお話です。

問題の所在

https://twitter.com/tam07pb915/status/1118157873219948545

学生の書いたものを読んでいると,カンマやピリオドの後に半角スペースを入れないで書いているものが頻繁にありました。

Yesterday,I went to the zoo with my family.After that,we went to an Italian restaurant.It was delicious.

みたいな感じのものを想像していただければいいかなと思います。見る人が見たら気持ち悪くてたまらないと思うのですが,おそらくデジタル環境で英語を書くという経験の少なさからこのような英文になってしまうのだと思います。もちろん,タイポのようなことはありうるのですが,それでも一つの投稿で頻発していたり,ある特定の学習者が連続して誤りを犯しているとどうもこれは半角スペースを入れることを知らないのではないか?と考えるようになりました。

手書きでスペースをあける行為と,キーボードやスマートフォン上でスペースバーを押したり,フリック入力時に「空白」と書かれた部分をタップしたりという行為が関連付けられていないのかもしれません。また,日本語では句読点の後にスペースを入れるというルールはありません。

だからといって,彼らの今後の英語使用場面として手書き以外で英語を書くことがないと想定することはできませんし、スペース入れるということも身につけて欲しい(そうじゃない文見たときの気持ち悪さもわかって欲しい)ことではあるのでしつこく言っていかないといけない気がしています。もちろん,気づいたときにはメインのチャンネルにも共有する形でスペースを入れるようにコメントを出してもいます。ただ,そういうことよりもむしろ「リアルなコミュニケーション」の道具として英語を使って教員ともやりとりしてほしいというところもありますので,あまり半角スペース警察にはなりたくありません。

また,授業運営上でも問題はあります。それは,語数のカウントです。語数のカウントは,1語ずつを単語だと認識して数え上げているわけではなく,単語と単語の間に生まれるスペースを基準にして数えています(詳細は上記の過去記事か,「エクセル 単語数える」とかでググって見てください)。つまり,”Yesterday, I”は2語と認識されても,”Yesterday,I”は1語になってしまうというわけです。ピリオドのあとに半角スペースがなく次の文が始まる場合も同様です。私は,「1週間で○○語を書き込むこと」を課題としていますので,あまりにもこのミスが多いと語数のカウントが通常より少なく計算されてしまいます。

解決方法

私が考えつく解決方法は以下のとおりです。一番土方っぽいものから順に,

  1. Googlespreadsheetの書き込みを1セルずつ確認して,ピリオドやカンマのあとにスペースがなければ手作業で足す
  2. Googlespreadsheetの「検索と置換」でピリオドやカンマを探し,ヒットしたものを目視で確認して半角スペースがなければ足す
  3. Googlespreadsheetの「検索と置換」で正規表現を使ってピリオドやカンマのあとにスペースがないものを一括で修正する
  4. Googlespreadsheetでsubstitute関数を使って置換する

1や2はありえないとして,3も問題があります。それは定期的に作業をしないといけないという点です。Googlespreadsheetを使う利点は,一度作業をしたらしばらくの間は放置しておいても勝手に語数が記録されて学生が確認できるという点です。したがって,できれば4で考えたいところです。しかしながら問題は,substitute関数では置換したい対象をうまく持ってこれないという点です。もしも,「すべてのカンマまたはピリオドについて,ピリオドまたはカンマと半角スペースに入れ替える」とすると,正しく使われているところに余計にスペースを入れてしまうことになります。そうなると,スペースの数を基準とする語数カウントがうまくいきません。そこで,正規表現を使う必要が出てきます。なんと,Googlespraedsheetには正規表現が使える次のような関数があります。

  • REGEXEXTRACT(正規表現で一致する文字列を抽出)
  • REGEXMATCH(正規表現で一致する文字列があるか検索して真偽値を返す)
  • REGEXREPLACE(正規表現で一致する文字列を別の文字列に置き換える)

今回の場合は,置き換えが必要なので3番目のREGEXREPLACE関数を使います。正規表現についての詳しい説明はウェブ上にごろごろ転がっているので,以下では詳しい説明はしませんのでご了承ください(注1)。REGEXREPLACE関数は,REGEXREPLACE(検索対象テキスト, 正規表現, 置換)という引数を取ります。最初の検索対象は学生が書き込んだテキストの入っているセルをしていすることになります。では,正規表現の部分はどうすればよいでしょうか。置換したい対象の文字列は,「ピリオドまたはカンマのあとに単語列が続くもの」でした。これを正規表現で表すと次のようにできます。

“(\.|\,)(\w+)”

ここで,カッコでくくってグループ化しているのは,置換するときに元の文字列を使いたいからです。置換は,ピリオドとカンマ,その後に続く単語列はそのままで間にスペースを挟むので,

“$1 $2”

$1は最初にグループ化したものなので,ピリオドまたはカンマ,$2は次にグループ化したものなので,任意の単語列になります。その間に半角スペースが入っています。つまり,次のような関数が完成形になります。

=regexreplace(テキストのあるセル, “(\.|\,)(\w+)”, “$1 $2”)

これで,ピリオドまたはカンマのあとに単語列が続くときは半角スペースを挟む」という作業ができるようになりました。あとは,この関数のセルに対して語数カウントをする数式を適用すればよいわけです。

新たな問題

さて,うまくいったかのようにみえたのですが,実は先程の例を使うと別の問題が発生することに気づきました。それは,半角スペースはあるけれど,それがピリオドやカンマの前にあるという場合でした。例えば,下記のようなものです。

Yesterday ,I went to the zoo with my family .After that ,we went to an Italian restaurant .It was delicious.

このような用例に対して先程のREGEXREPLACE関数を適用してしまうと,新しく得られるものは次のようになります。

Yesterday , I went to the zoo with my family . After that, we went to an Italian restaurant . It was delicious.

これでは,カンマやピリオドが1つの単語として認識されてしまい,語数のカウントが逆に多くなってしまいます。これを避けるには,「文字列の直後にあるカンマやピリオドの場合には」という条件を加えれば良さそうです(注2)。ということで,改良版は次のようなものです。

=regrexreplace(テキストのあるセル, “(\w+)(\.|\,)(\w+)”, “$1$2 $3”

Googlespreadsheet上で見ると下記画像のようになります。

置換前と置換後のテキストと,それぞれの語数カウントの比較

 

おまけ(絵文字タグの削除)

slackといえば,絵文字も使えます。絵文字も文字コミュニケーションにおいては重要だという部分もありますし,一切絵文字は使うなというのもおかしな話です。slackから書き出される絵文字は,半角のコロン(:)に挟まれたタグになってテキスト化されます。”:heart:”や”rolling_on_the_floor_laughing”と言った感じです。これが文字列にくっついている場合は特に問題ありません(注3)。しかし,文字列から独立した状態で使われると,絵文字1つが1単語と認識されてしまいます。このことに気づくと,すべての文に絵文字をつけたり,あるいは半角スペースを挟んで絵文字を連続させたりという学生が現れます。昨年度は口頭注意でそれなりにケアしていましたが,どうせREGEXREPLACE関数を使うのだから,絵文字タグも取ってしまえばいいということに気づきました。下記のようにしてあげると,絵文字タグが取れます(注4)。

=regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”)

実際にGooglespreadsheet上で使うときには,スペースが入っていないことで生じる問題を解決する関数を使った上で,その結果の出力に対してさらに別の列で絵文字タグを取る関数を使うのもありです。むしろ,プログラミング的には良いのだと思います。なぜなら,なにか問題があったときにその問題の原因を探りやすいからです。ただ,入れ子にすれば1列で済みます。

=regexreplace(regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”),“(\w+)(\.|\,)(\w+)”,“$1$2 $3”)

さらに,語数をカウントする数式にこのREGEXREPLACE関数も入れ込むと…

=(LEN(regexreplace(regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”),“(\w+)(\.|\,)(\w+)”,“$1$2 $3”))LEN(SUBSTITUTE(regexreplace(regexreplace(テキストのあるセル,“\:.*?\:”,“”),“(\w+)(\.|\,)(\w+)”,“$1$2 $3”),” “,“”)))+1

もうなんだかわけがわからなくなってきましたが,この最後の数式を使えば,新しく列を増やしたりすることなしに語数カウントができるようになっています。

おわりに

この記事では,Googlespreadsheetで正規表現を使って学習者が犯すパンクチュエーションの誤りを直すということの例を示しました。他の媒体(R,Python,サクラエディタ)等で正規表現を使った経験があるのでなんとかなりました。一応ざっと確認して特に問題ないとは思っていますが,正規表現にはあまり自信がないので間違いを見つけた方はどうかコメント欄等でご指摘ください。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注1: 記号類をそのまま使うときになんでもかんでもエスケープ記号つけるのは私の癖です(そして一貫性もないですたまに忘れるので)

注2: この方法の一つの問題は,”I ate lunch ,and took a nap.”のようなものが残ってしまうという点です。「半角スペースの直後にピリオドやカンマがあり,その直後に文字列が続く場合には,半角スペースを消して文字列とピリオドやカンマの後に挿入する」のようにすれば解決されます。ただし,関数の入れ子が複雑になる上に単語数カウントには関係ないので今回は無視しています。REGEXREPLACE関数でやるとすれば,次のようなものになるかなと思います。

=regexreplace(対象文字列のセル,“\s(\.|\,)(\w+)”,“$1 $2”)

注3: もしも,単語リストを作ったり,コロケーションを見たりのようにテキスト分析にいこうとすると,この絵文字タグは外してあげないと絵文字タグと隣接する文字列が認識されなくなってしまいます。

注4: 17:10:29のように時間をコロン区切りで書き込むような例があると,これも引っかかってしまうのですが,まあほとんどないと言っていいと思うので木にしていません。

タスクタイプとengagementの関係

久しぶりに論文の簡単なレビュー的なものを残しておきます。下記の論文です。

書誌情報
Dao, P. (2019) Effects of task goal orientation on learner engagement in task performance. International Review of Applied Linguistics in Language Teaching. Advance Online Publication doi: doi.org/10.1515/iral-2018-0188

ざっくりとした概要

独立変数

convergent task (意思決定タスク)とdivergent task (意見交換タスク)の2種類
 

従属変数

  • cognitive engagement: idea unitとLanguage Related Episode (LRE)
  • emotional engagement: タスク遂行中に楽しんでるかどうか(笑ったりしていると1とカウントされる)
  • social engagement: 相手の発話への貢献(acknowledging, repeating, commenting, developing each other’s idea, or providing backchannels)
 
これら3つの変数は,全体のターン数で割って比率として分析しています。この他にもemotional engagementについては質問紙調査を実施しています。(5項目で10ポイントのリカートスケール)
 
例:
  • I felt enjoyable when interacting and doing the task
  • I felt interested when interacting and doing the task
  • I felt bored when interacting and doing the task (おそらく逆転項目)

詳細に見たかった部分

 
どんなタスクをやったのかというのが一番気になるところでしたが2つのタスクはそれぞれ次のようなものです。
 
 
意思決定タスク
自分たちの通う大学の問題点をいくつか挙げ,それに対する解決策を提示する。タスクの最後に,問題点と解決策をリストアップしてレポートを書く。問題点と解決策については合意が必要。

意見交換タスク
ペアの相手と共同経営することになった新しいビジネスについて,オンラインショッピングのシステムを作るか,実店舗での店頭販売をベースにするかについてのディベートタスク。タスクの最後に自分の主張の根拠となる理由と,相手の主張に対する反論をリストアップし,それをもとにしてどちらが良いかについてのレポートを書く。論文中には記されていないが,おそらく学習者はランダムにどちらかの立場に立って議論するように求められ,最終的なレポートについても決められた立場から主張を述べなければならないことになっている。2つのタスクの比較については下記の表参照。

 

 
 
Outcome optionの”opened outcome”というのは,答えが決まっていない(学校の問題点や,オンラインショッピングのほうが良いと主張する理由等については学習者の考え次第)という意味で,「誰が犯人かを推測する」,「バラバラの物語の一部を正しい順序に並び替える」といった答えが決まっている問題解決型のタスクとは異なるという意味(だと思われます)。
意思決定タスクは合意に向かう議論になりすが,意見交換型タスクは自分の立場を主張し,相手に反論するだけで,合意形成は求められないというのが大きな違いです。この2つのタスクについて言いたいことがあるのですが,とりあえずそれは後で述べるとして,結果のまとめとして下記の表を見てください。
 
 
 
 
2つのタスクを比較して,統計的な有意差が認められたのはcognitiveとsocialのみでした。emotionalについては,タスク中の発話に基づく分析も,質問紙に基づく分析(本文中のTable 3)もともに統計的な有意差は認められず。この結果は,goal orientationがdivergentかconvergentかでタスク中のやりとりに違いが認められるということを示すとともに,Pica et al. (1993)で言われているように,divergent型の意見交換型タスクは学習者のインタラクションを促進するかという観点において”least effective”であるということを示していると著者は結論づけています。
 
 
LREについては,意思決定タスクのほうが高いという結果が出ていますが,そもそもの回数が少ないので結果の解釈には注意が必要だと述べられています。意思決定タスクでも,1回のタスク中(10分)で平均して2.44回しかLREは出現していません(しかもSDが平均値に近いくらいの値なので,0回というペアもかなりあったことが推測されます)。
 
 
Emotional engagementについては,goal orientationが違うことはあまり影響しないという結果でした。意見交換型のタスクでも,質問紙の結果では10段階で平均8.2(意思決定タスクは8.45)ですから,どちらのタスクもemotional engagementは高いのだろうと思われます。ただし,どちらもSDが5を超えている点には注意が必要になります。
 

タスクの問題点

意見交換型タスクが意思決定タスクに劣ったというのは,予め立場が決められていたことが問題なのではないかと思います。自分が与えられた立場に同意できればともかく,ディベートの場合必ずしも自分の意見と一致する立場で主張を述べなければならないことも多く(コレ自体はcritical thinking的な意味で言えばそこまで問題とも思わないが),それがengagementを低くしてしまったという点もあるように思います。ディベートはどちらの立場からも意見を述べられるようなトピックを扱うのだと言われたらそれはそうかなと思いますが。
 
 
また,意思決定タスクが自分たちの学校についての問題であるのでトピックに対する親密度も関係があったのではないかという点も指摘ができるかもしれません。モノローグタイプのタスクではありますが,トピックの親密度が高いほうが発話が豊かになるという指摘もあります(Qiu, 2019)。
 
 
意見交換型はビジネスの問題で,普段からこの問題に関心がある学生だったのかどうかがわかりません。ビジネス系の学生であれば背景知識も豊富でたくさんのidea unitが出てきたでしょうけれど,そうではない場合にこの問題を語るのは難しい気もしますし,英語の熟達度的にもこちらのほうが専門的な用語が多く必要となってくるのではないでしょうか。もっとも,p.7のセクション2.4のすぐ上のパラグラフで
 
With regard to practical reasons, both tasks were included in the learners’ syllabus and course materials, and the teachers of the participants reported to have used them frequently in their previous teaching activities. The two task topics (university issues and shopping) matched the themes covered in the learners’ theme-based course materials. To reduce a possibility that task topic might have impacted learner engagement, the two topics were selected based on the informal survey that reported university and shopping topics as the learners’ two most favorite topics.
 
という記述はあります。査読者に指摘されたのか,あるいは最初から書いてあるのかは定かではありませんがトピックの親密度という観点についてはディフェンスしてあります(つまり,著者もそういうことを言われるだろうという認識はある)。
 
 
とはいえ,あえてトピックを変えなくとも学校の問題点と解決策というトピックに固定して,意思決定型は合意を求め,意見交換型はおのおのが思う問題点と解決策をペアでシェアするという構成でもよかったように思います。というか,そちらのほうが「意見交換型」としては個人的には問題なく受け入れられます。ただし,debateという相手への反論が要求されるようなものでなければ,今回観察された以上に意思決定型との差が大きくなってしまうかもしれないとも思います。debateという形式を取ることで,相手の言ったことに対してただ単に「へー」で終わらせることができなくなっているという点はあるでしょう。そうした点で,合意を求めずともインタラクションが活発になるように仕組むための工夫がdebateを持ち込むという結果になったのかもしれません。
もう一つ個人的なことを言えば,ディベートという形式を取らない私が考えているような意見交換型タスクであれば,多様な意見がかわされればかわされるほど盛り上がることが見込まれるので,2人よりは3人,3人よりは4人というグループ構成で行ったほうが議論が盛り上がるのではないかと思います。1人で様々な角度から物事を分析的に考えて意見を提示できるような学習者同士のやりとりであれば2人でも議論は大いに盛り上がるでしょうけれど,大学生1年生や2年生でもそうしたことが2人で成立することがそこまで一般的に当然として考えられるとは言えないと思うからです。
 
 

この論文のポジティブな点

とまあいろいろ言いましたが,この論文の著者の狙いとは違うかもしれませんが,この論文を自分がポジティブに受け止めている点もあります。それは,タスクに関わる変数ではなく,タスクのタイプを主題として取り上げていることです。もちろん,上のTable 1のようにタスクをある観点(変数)で見たときに違いがあるということではあるのですが,実際にはdivergent-convergentという2つの異なるタイプのタスクを比較しています。これまでのタスク研究は,良くも悪くもタスクを操作する際の要因に着目して細かく検証することが多かったように思います。それも意味のあることで,準備時間の有る無しであったり,タスクの難易度を操作してみたり,というのは教育的示唆という観点でも有益でしょう。これらの要因は教師が操作することができるわけですから。一方で,現実的にタスク・ベースのコースを作ろうとシラバスを考え始めたとき,そのベースになるのはタスクを調整する変数ではなく,どのようなタイプのタスクにどのような順番で取り組ませるべきなのかということになるのではないかと思います。直感的に,意思決定タスクと情報伝達タスクを比較したら前者のほうが難しいから情報伝達が先にくるべきだろうのようなことは考えられます。ただし,タスクタイプの観点から見て,タスクの難しさやその要因を整理するということについていえば知見の蓄積がまだまだ乏しいように思います。

私が今関わって作っている教材もタスクタイプごとに整理していますが,タスクタイプという切り口は直感的に捉えやすく,異なるタスクの比較が見えやすくなります。そういうタスクのタイプという要因を正面から取り扱っているという点で,この後に続く研究が楽しみになってくるかなと思っています。ただし,従属変数のengagementについてはもう少し何か他の変数がないのかなということを思ったりしています。

おわりに

タスク系に正面からタックルした研究というのをなかなかできていないので,こういう論文を参考に何かできないかなと考えたりしています。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

 

参考文献
 
Pica, T., R. Kanagy and J. Falodun. 1993. Choosing and using communication tasks for second language instruction and research. In G. Crookes and S. M. Gass (eds.), Tasks and language learning: Integrating theory and practice, 9–34. Clevedon: Multilingual Matters.

 

Qiu, X. (2019). Functions of oral monologic tasks: Effects of topic familiarity on L2 speaking performance. Language Teaching Research. Advance Online Publication. doi:10.1177/1362168819829021

 

雑誌『英語教育』3月号に記事が載りました

大修館書店から出ている『英語教育』という雑誌の3月号に,「言語における数(number)の不思議」というタイトルの短い記事が載りました。英語教育研究最前線(Cutting-edge research)というリレー連載のセクションで,私が博士論文研究で扱ったテーマについて書いています。「英語教育研究」というセクションでありながら,英語教育とはあまり関係のない文処理の話です。

自分で言うのもあれなんですが,私の対象としているものは非常にマニアックであまりウケがいいものではないのですが,そういう研究でもこういう媒体でできる限りわかりやすく書くことも自分の仕事だという思いで書きました。

普段は『英語教育』を買わないという方も,お手にとって読んでいただければ幸いです。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

The Writing Mentorを使ってみた

Twitterで下のツイートを見かけました。

 

Google Docsで使える無料のライティング・フィードバックツールだと!?ライティングの授業を担当している私としてはこれは試してみるしかありません。というわけで,どのような機能がついているのかと,私の感想を書いておこうと思います。

はじめ方

  1. https://mentormywriting.org/に飛んで,”Download”をクリックします。
  2. Google Chromeのウェブストアに飛ぶので,インストールします(Googleアカウントの認証があります)
  3. Google Docsにアクセスしましょう。
  4. 下の画像のように,アドオン->Writing Mentor->Startをクリックします。

  1. 右側に,Writing Mentorが出てきます。下の画像の前の段階で,何の目的でライティングすることが多いかと,自分のレベルがどれくらいかを自己申告するものがあります(Grammarlyにもありますよね確か)。

  1. あとは,Google Docs上で何か書いて(またはどこかからコピペして),”Get Feedback”という緑のボタンをクリックすれば,フィードバックがもらえます。

どのような機能があるのか

フィードバックをもらいたいライティングプロダクトを入力して,緑のボタンを押すと,下のような画面が現れます。今回は,私が修士課程にいたときの授業の1つで,”Explain Bourdieu’s three kinds of capital.  Give some examples and tell how they are related.”というお題で書いた短い文章を使ってみました(他にパッと使えるものが思い浮かばなかったので)。

語数カウントと類義語検索

この画面では,左下に全体の語数のカウントが出ます。その隣には,目標語数が入力可能です。真ん中下の緑の”I’m finished”の右にある”Unfamiliar Words”は,単語を入力するとその類義語を表示してくれる機能のようです。テキスト中に含まれていない単語でもOKです。語数カウントは別にGoogle Docsの標準機能にありますし,類義語検索はGrammarlyのChrome拡張機能が入っていればダブルクリックで表示してくれるので,そちらのほうが便利ではないかなと思います。文中にないような類義語が知りたいという場面がどういうときに発生するかはわかりませんが,そういう用途があれば使えるということでしょうか。この2つは特にメインの機能ではないと思います。ただ,一ついいかなと思うのは,類義語検索した語とそのリストをテキストファイルで出力して保存できる点です。

includeは文書に含まれていたもの,insane(なぜこの単語)は文書に含まれていないものでした

フィードバック機能

フィードバックはConvincing, Well-developed, Coherent, Well-editedの4つの観点から提供されます。順番に見ていきます。

Convincing

Convincingはさらに”Claims”と”Sources”の2つに分かれています。要するに,書き手の主張はちゃんとサポートされているのかをチェックするよということのようです。”Claims”をクリックすると,”Hedge”, “Boosters”, “Standard”の3つの種類の表現がハイライトされます(全部一度にハイライトもできますし,個別にハイライトも可能)。

例えば,”Headges”では,can, could, tend toなどの表現がハイライトされます。ハイライト部分をクリックすると,下の画像のような文章が現れます。

ヘッジ表現を使っているけれども,ちゃんとこの主張はサポートされているのかい?ということですね。

“Booster”は逆に強めの主張で,willなどの助動詞や,Especiallyなどの副詞がハイライトされ,クリックすると上の画像と似たような感じで「これは強めの主張だけど,ちゃんとサポートされているのかい?」というメッセージが出てきます。

“Standard”はheadgeでもboosterでもないニュートラルなものと書いてありますが,ハイライトされたものを見てもどういう基準でハイライトが入るのかはちょっとよくわかりませんでした。

”Standard”でハイライトされた単語

おそらくですが,価値判断や主観が入るような単語や表現がハイライトされるのかなと思いました。クリックすると出てくるメッセージは「これはclaimかい?ちゃんとサポートされているのかい?」というものでした。

今回試しに入力した文章ではレファレンスがなかったのですが,レファレンスがあると”Sources”で確認できるようです。つまり,レファレンスに書いてあるものが本文中に書いてあればハイライトされるというような機能なのかなと思います。長めのレポートのチェックにかなり便利でしょうね。

Well-developed

この機能は,入力した文章の中で最も高頻度で現れた”main topic”と呼ばれるキーワード(多分名詞か形容詞に絞られていると思います)が示されるとともに,”topic keywords”と呼ばれるその他の重要そうな単語がハイライトされます。”topic keywords”は自分で追加・削除が可能で,変更するたびに”Apply Changes”をクリックすると変更が反映されます。

これは正直このフィードバック受けたあとにどうしたらいいかが先ほどのConvincingの部分よりもわかりにくいかなと思いました。入力した文章のせいかもしれませんが,文章のメインのトピックとそれに関連したサブトピックスのつながりとかそれぞれのサブトピックスについてちゃんと書けているのかといったことを確認していくことになるのかなという感じでしょうか。つまり,キーワードの周りを注意して読みましょうね,という。

Coherent

この下位分類として,Flow of ideas, Transition Terms, Long Sentences, Title&Section Headers, Pronoun useの5つがあります。Title&Sectiobn Headersはヘッダー入れようねということなので,長めのペーパーを意識したフィードバックかなと思います。今回は短い文章なので,それ以外の4つを見ていきます。

Flow of Ideasは,前のWell-developedとほぼ同様ですが,トピックが複数ある場合に有効なようです。今回は短めだったからかメイントピックは1つと認識されましたが,メイントピックが複数ある場合はそれに関連したキーワードのみを表示することが可能なので,複数のメイントピックがごちゃごちゃになっていないのかを確認することができるのだと思います。つまり,メイントピック1を書いている部分にメイントピック2のtopic keywordsが混ざっちゃってるよ!というようなことが視覚的にチェックできるということなのでしょう。このあたりは未確認なので,もっと長い文章で試してみる必要がありそうです。

Transition Termsはおなじみのやつですね。いわゆる接続語句で,Howeverなどの逆接や,for exampleなどの例示,first, secondなどの順序を表す語句などがハイライト表示されます。ハイライトされた語句をクリックすると,その単語の機能(As a resultをクリックすると,”Consequence”と出てきます)と類義語がリストで表示され,リストのうちの一つをクリックすると元の語句と入れ替わります。注意が必要なのは,この段階では文法のチェックはされないということです。よって,例えば文頭の”In contrast”の類義語として”in stead of”が出てきますが,それをそのまま使うと誤りになってしまうというようなことが起こるので,接続語句の使い方をわかっていなければいけません(in contrastとin stead ofはなんか違うような…)。

Long Sentencesは文字通り一文が長いものをハイライトしてくれて,2文以上に分割したら?と言ってくれます。これは一文に含まれる節の数で判断しているようですが,単純にそれだけではないようで,割と単純そうに見えるものでもハイライトされたり,逆にthat節の中に関係節が埋め込まれているというようなものはハイライトされなかったりしています。

 

Pronoun useは,文章中の代名詞をすべてハイライト表示し,

Do pronouns in your assignment refer to one clear noun referent? Read aloud the sentences containing pronouns to make sure that the references are clear to you!

という指示を出してくれます。さすがに代名詞の照応ができているかとかそんなことは見てくれませんが,「この代名詞なに指してんねん!」みたいなのは学生のプロダクトを見ているとしょっちゅうあるので,そこに意識を向けさせるだけでも良いでしょう。

Well-edited

最後に,文法などの誤りへのフィードバックです。下位分類として,Errors in Grammar, Usage & Mechanics, Claim verbs, Word choice, Contractionsがあります。

Errors in Grammar, Usage & Mechanicsは,文法の誤り,綴りの誤りなどを訂正してくれます。冠詞や数の一致はしっかり拾ってくれますが,統語的な誤りについては難しいようです。例えば,次の文(もとの文から関係詞を削除したもの)は誤りとして検出されませんでした。

it is obvious that children (who) have cultural and linguistic capital which is considered to be valuable would be able to achieve high social status, symbolic capital.

Grammarlyでも誤りにならなかったのでこういうのは機械では難しいのですかね。

Claim verbsはthinkなどをハイライトしてくれます。自分の主張をするときには有効だけど同じ単語を繰り返し使っちゃうこともあるから,見直して言い換えてみようというようなアドバイスがあります。ハイライトされた単語をクリックすると類義語が見れて,リストの単語をクリックすると入れ替わります。

ただし,文脈と関係なしにハイライトされることには注意が必要でしょう。例えば,上の画像の”thinkは”the ability to think”という名詞句の一部であり,書き手の主張を表すthinkではありません。

Word choiceは,主に余計な副詞がハイライトされるようです。very, really, absolutelyなど,おそらくですが主観に基づく強意副詞等について,「これ本当に必要なの?」とサジェストしてくれます。

Contractionは,省略形(don’tなど)がある部分をハイライトして,それを直すように言われます。これはワンクリックで直してくれたらありがたいですが,自分でタイプして修正しなければいけないようです。

感想

まずはじめにものすごくプラクティカルな問題なんですが,ウィンドウを大きくしてもWriting Mentorの部分は大きくならず,左右のスクロールをしないと本文とフィードバック部分を同時に見れないというのはかなり使い勝手が悪いです。これはフィードバック機能そのものとか以前の問題です。

 

私の環境の問題かもしれませんが,せっかくの42.5インチディスプレイがこのざまですよ。

というのはさておき,肝心なフィードバックの部分についてですが,教師が手とり足取りそれぞれのフィードバックの意味や改善方法を教えないと無理だろうなというのが率直な感想です。もちろん,何が問題か,どう直すべきかは英語で書いてあります。「英語で書かれている時点で厳しい」というレベルの学習者にとってはそこすらハードルになりえるかもしれませんが,そうではなかったとしても,「直し方」についての具体的なフィードバックはありません。私のような英語教師(高熟達度で自律的な英語学習者)だからこそ,「あーヘッジ表現ね」とか,「んーたしかにここはちょっと強く言ってる割には根拠レスだな」とか,「キーワードがぐちゃぐちゃってことはいろんなアイデアが混ぜこぜになってるわ」というようなことがわかるわけで,そのレベルにないほとんどの学習者にとっては教師のヘルプなしにこのツールを導入することは逆に大きな混乱を招きかねないと思いました。

また,文法チェックについては,上に書いたようにGrammarlyのGoogle Chrome拡張機能がGoogle Docsに対応しているので,そちらで対応するほうがシンプルだと思いました。もちろん,GrammarlyはCoherenceの部分は対応していないので,そこについてはWriting Mentorのフィードバックが活きてくるでしょう。

自分の授業に取り入れるかどうかはまだわかりません。Writing Mentorの導入段階でどのような指導が必要になるかをよく練った上で,上手にツールを組み合わせれば教師の仕事が減ることは間違いないだろうということは言えますが,問題は使い手次第ですね。「どう使わせるか」がかなり大事になってくると思います。繰り返しになりますが,ライティングで大事なことは何かがわかっている段階でないと,Writing Mentorがくれるフィードバックを活かしてよりよい英文を書くというのは難しいです。私が受け持つ外国語学部1回生のことを思い浮かべてみても,彼らですら使いこなせるかわからないと思ってしまうくらいです。エッセイライティングにフォーカスした授業だとしたら,カリキュラムのその後半部分や学年があがった段階で導入するのはありかもしれません。

最後に,私の印象ですが,これはタームペーパーのようなものが課題として想定されているのかなと思いました(最初の設定で変わるのかもしれません)。パラグラフ・ライティングや短めのエッセイだと,Writing Mentorのフィードバックのいくつか(例えばreferenceの部分やトピックのことなど)はそこまで有益なものにならないかもしれません。そのあたりの見極めも,実際にどのようなものを入力すればどのようなフィードバックが返されるのか,いろいろなタイプの文章で試してみる必要がありそうです。

おわりに

というわけで,Writing Mentorをちょっと使ってみたレビュー記事を書いてみました。機械の限界はあれど,こういうツールをどう使いこなせばいいライティングの授業ができそうかを考えるのは楽しいですね。みなさんもいろいろな文章で試してみてください!そして,ぜひぜひそれを共有してください。

なにをゆう たむらゆう

おしまい。

 

 

 

「意思決定タスク」の難しさ

ライティングの話が多かったので,今回はスピーキングの話。

タスクのタイプには情報伝達・ナレーション・情報合成・問題解決・意思決定などがありますよね。といってもわかりにくいかもしれませんが,一言でタスクと言ってもそれが求めることによっていくつかのタイプに分類できるのではないかなという話です。タスク・タイプの詳しい解説については,下記の論文をご参照ください。

松村昌紀(2017)「タスク・タイプの理論的基盤と学習者の言語使用」『中部地区英語教育学会紀要』46, 55–62. doi:10.20713/celes.46.0_55

意思決定タスクとして有名なのは「無人島タスク」で,「無人島に持っていくものをみんなで相談して決める」というもの。これが大筋で、どういう経緯で無人島に行くことになったのか,何個まで無人島に持っていくことができるか,その無人島は一体どんな場所なのか,などのコンテクストをうまく設定することで,リアリティを持たせるとともに議論に一定の方向性を持たせたり,持ち物を決める際のリーズニングのベースとして機能させたりします。

意思決定タスクのゴールは「合意」で,話し合いの中で意見を1つに集約することが求められます。無人島タスクなら,「1つだけ持っていける」という制限だとしたらその持ち物を1つに決めることができればタスクが達成できたと判断することになります。

私も授業でよく意思決定タスクをやることがあります。授業で使っているテキストに関連させた内容にすることが多いのですが,実際にタスクをやらせると,「合意する」というのは結構ハードルが高いのだなということを思い知らされます。だからこそ,タスクを配列することになった時には意思決定タスクは後ろの方にすることになるんですけどね(余談ですが,実際にゼロからタスクを構想したとき,1番作りやすいのは意思決定タスクだと個人的には思っています)。

例えば,「4人の教員採用候補者の中から1人選ぶ」というタスクをやるとします(R.Ellis, 2003に例が載っています)。この時,目の付け所って色んなところにあるんですよね。というかそうしないとそもそもタスクとして盛り上がらないわけです。みんながみんな「絶対この人でしょ」みたいになってしまえば,議論した上で合意形成するというプロセスが必要ないわけですから。ところが,そうやって意見が割れるように仕組むところまではうまくいっても,それをすり合わせるのはなかなか難しい。教員側としては、たくさん議論してほしいわけですから,簡単に誰かの意見に同意して議論を終わらせるみたいなことだけはどうしても避けたいと考えます。そうすると,「誰かの意見に簡単に同意できないからとにかく自分の意見を貫き通す」ことになってしまいます。しかし時間内にどこかで合意しないとタスク達成にならないので,どこかで誰かが折れて1つの意見を最終的に採用することになります。この「折れる」とき,採用される意見に納得していて,その意見を出した人がみんなを(または2人で取り組んでいるのなら会話相手を)説得したというのならそれでいいなと思います。ただし,やり取りを聞いていると,その議論がかみ合わずに平行線になって止まってしまい、埒があかないからどちらかが折れて合意するという流れが圧倒的に多いように感じています。

もちろんタスクの設定の仕方の問題もあるでしょうし,学生の言語的なレベルの問題もあるでしょうし,言語に関わらず議論するスキルの問題もあるかもしれません。原因が1つに絞られるとは思っていませんが,とにかくこの意思決定タスクというのは難しいということが,この1年間スピーキングの授業をやっていて思ったことです。合議によって意思を決定するというゴールに到達するためには,どのようなサブゴール(cf. タスクにおける”sub-goal”という概念)があるのかなというのも考えなくてはいけないかもしれません。それが明らかになれば,ある程度誘導が可能だからです。ただ,それを事前に教えるというのはタスクっぽくなくなってしまうので,それもやりながら徐々に浸透させていくような工夫が必要になるかなと思います。

授業で「意思決定タスク」をやるときに,気をつけているポイントはありますか?ということをみなさんにぜひ聞いてみたいです。

なにをゆう たむらゆう

おしまい。

タスクにおける”sub-goal”という概念

はじめに

下記の本を月例の研究会で1章ずつ読んでいます。

Recent Perspectives on Task-Based Language Learning and Teaching

Ed. by Ahmadian, Mohammad / García Mayo, María del Pilar

この本全体については,Cognitive-Interactionist, Sociocultural Theory, Complexity Theory, Pedagogic and Educationalという4つのperspectivesからなる12章の本で,個人的には通読するよりも気になった章だけつまみ食いするという読み方がいいかなと思います。正直言ってあまりおもしろくない(質があまり高くない)チャプターも結構ありますので。

 

第7章がおすすめ

この本の第7章は,Martin Bygateが書いた”Dynamic Systems Theory and the Issue of Predictability in Task-Based Language: Some Implications for Research Practice in TBLT”という論文です。タイトルにDynamic Systemsと書いてありますが,そこまでDSTを推しているということではなく,「タスクってさ,何かやらせてみてもどんなことが起こるかわからないしリアクティブに教えるのがいいっていうけどやっぱそういうの不安だもん」みたいな言説について,predictabilityが一応ありますよっていうことを言うための理論的基盤としてDSTを持ってきているという印象です。それをベースにして,ケーススタディ的にデータを見てみるというようなのがこの論文の流れです。

この章を読むまでは,「この本は失敗だったかもしれない」と思うほどがっかりさせられるようなものが多かったのですが,この第7章は面白いなと久しぶりにワクワクしました。もちろん,ちょっとそれはどうなのと思うところもあるにはありました。ただ,それを差し引いても面白かったです。

 

何がそんなに面白かったか

一言で言えば,この記事のタイトルにもしている”sub-goal”という概念を導入している点が個人的にはこの論文で一番inspringだと思ったところです。示しているデータはおそらく過去の研究のものでしたし,特に分析をしっかりしているということではないのですが,それでもこの”sub-goal”というものはTBLTの研究でいろんなことができそうだなと思えた,そう思わせてくれるような内容でした。もちろん,実践においても示唆があることだと思いました。

sub-goalとはなにか

TBLTをご存知の方には馴染みのあることだと思いますが,タスクにはゴールがあります。spot-the-difference taskなら2つの絵の間にある違いをすべて見つけ出すことがゴールですし,picture description taskなら絵(または写真)を見ずに口頭で描写し,もとの絵(や写真)にできるだけ近いものを完成させるというのがゴールになります。この章で例として用いられているタスクは,6コマ漫画を6人で分割して1人が1コマずつ持ち,見せ合わずに正しい順番に並び替えるというものです。この場合,「正しい順番に並び替える」というのがゴールになります(注1)。

Bygateが言っているのは,このゴールに向かう前の段階にいくつかのphaseがあるということです。どんなphaseかというのを説明する際にBygateは,pragmaticとかdiscourseとかいう言葉を説明の際に使っています。少し長いですが,このphaseについて説明している箇所を本文から引用します。

A phase was defined in terms of the pragmatic coherence of a stretch of discourse which while not in itself achieving the overall task goal, likely contributed to achieving a useful enabling sub-goal. For instance, descriptions of the individual pictures in random order would contribute to the sub-goal of sharing information about the pictures, but would not themselves achieve the overall goal of sorting out the sequence and telling the story (even if by chance the students did actually provide the descriptions in the exact sequence of the narrative). Similarly, discourse during which students exchanged information about what they thought was going on in their respective pictures could not be interpreted as ‘telling the story’ either. Where students spent time suggesting potential sequencing of the pictures (still without seeing them), possibly accompanied by brief justifications, this kind of talk too contributes to a potentially useful subgoal, but still does not constitute the ‘telling of the story’. Hence the macro-purposes of the different discourse phases were inferred in relation to the pragmatic criterion: what are the speakers jointly trying to do at this point? Identification of phases enabled an assessment of the trajectories that the groups followed (p.155).

上の引用中では,”(sorting out the sequence and) telling a story”というのがタスクの最終的なゴールで,そこに到達するために有効なやりとりや言語行為をphaseとしています。複数コマ漫画の並び替えならば,まずは個々人の持っている写真を描写することからスタートすると予測されるので,それが一つのphaseになるというわけです。そして,自分の写真とグループメンバーの写真についての情報を全員が持った状態で,それぞれの写真に描かれている情報の違いを見つけることになります。そして,「いったいどんなストーリーなのだろうか」という話をしながら前後関係を特定していくことになると予想されます。これらの段階もすべてphaseであると。そして学習者はこういった複数のphaseを経て,最終的なゴールに辿り着くというわけです。

Bygateは,複数コマ漫画並び替えタスクでは次の5つのphaseがあるとしています。

  1. Description
  2. Comparison
  3. Interpreting gist
  4. Sequencing
  5. Narrative

ちょっとなんでだろうなと思ったことは,タスクの特性などから予測してこのphaseを導出したのではなく,実際の発話の書き起こしを分類してそれぞれのラベルを貼ったという点です。その後に,結果の解釈として,「複数のグループでタスクをやらせたけど,ほとんどのグループのタスク遂行中の発話に5つのphaseが見られた」みたいな議論に持っていっているのです。そして,このことから学習者たちのやりとりは予測可能なtrajectoryを通ってゴールに向かうという話につなげています。もともと発話データから導出した概念なのだから,導出に用いたものと同じ発話データにphaseが見られるのは,複数グループで見てみたとはいえある程度当たり前なのでは…という話です。さらに,もし仮にそこに違いがあり,違うグループでphaseの種類や用いられた数が異なっていたとすれば,最初に設定した5つのphase自体がそもそも分析に役に立たない枠組みだということになりますよね。この点については謎です。

また,個人的に気になったのは,最終的にタスクを達成できたかどうかと,用いられたphaseの数自体には関連が見られなかったという点です。例えば,分析している5つのグループのうちで3のgetting gistが見られなかったグループが1つ,5のnarratingが見られなかったグループが1つ,2のcomparisonと4のsequencingが見られなかったグループが1つという記述がありますが,この3つのグループはいずれも最終的なゴールである並び替えには成功しているというのです。この部分については,例えばcomparisonがなかったグループはもしかするとズルして絵を見せあっていたのかもしれないというような考察がなされています(このグループは終わるのも早かったらしいです)。しかし,もし仮にタスクの最終的な達成と何も関連がないのであるとすれば,このsub-goalという考え方自体がそんなに大事なものなのか?という疑問も湧いてきます。

さらに,言語使用面についてはphaseによって特徴的な部分が見られなかったと考察しています。つまり,同じphaseなら同じような言語表現が用いられるというようなことはなく,同じcomparisonというphaseでもグループごとに様々な表現を用いて行っていたと書かれています。ただし,”linguistic domains“については予測が可能かもしれないとしています。このdomainの例として,下記のようなものがあがっています。

the language for expressing impressions, inferences and approximations; the language of description and for identifying similarities and differences; the language for expressing motivations and consequences; the language for sequencing; and the language used for checking understandings (p. 160).

素人考えでちょっと微妙だなと思うのは,このdomainというのはほとんどphaseのラベルと同じようなものなのではということです。会話分析みたいなことに明るいわけではないのですが,ここまで抽象度があがってしまうと,それが予測できたことで何に活かされるだろうかということは疑問です。

 

sub-goalという考えのなにがそんなに大事?

さて,なんか,sub-goalってなんか別にそんな大事じゃないじゃんと思っておられる方もいるでしょう。私もここまでは批判的に書いてきています。ここからは,「そうはいっても結構色々なところに通じる概念じゃないかな」ということを書きたいと思います。

先ほど,「タスクの達成とは関係ない」という議論がされていると書きましたが,もし仮にそれがそうだったとしても,教室場面での教育介入を考えた際にはsub-goalという概念は大事だと思います。まずは,授業の準備段階でsub-goalは役に立ちます。

 

タスクの作成・計画段階で有益

これはタスクに限ったことではないのですが,どのような言語活動を仕組むにせよ,教師は活動を考え,その手順を構想し,最終的にどこに辿り着くことを目指すのかを思案しますよね。その際に,活動に取り組ませたときにどのようなことが想定されるかを全く考えない教師はいないと思うのです。「きっとこんなことが起こるだろうな」とか,「こういうことになったらどうしようか」などと考えながら,事前に準備しておいたほうがよいことについては仕込んでおき,指示の与え方や順序を工夫したほうがよさそうならそのように対策を打っておくはずです。このとき,例えば事前にタスクのsub-goalがわかっていれば,学習者が起こす行動の予測がつきやすくなるといえます。冒頭にも書きましたが,タスクは(特にやりなれていないものをやる場合は)出たとこ勝負の部分もあり,何が起こるかわからないから事前にあれこれ教えてこちらの想定内でやってほしいという教師の思いも理解はできます。しかし,今後sub-goalという枠組みで様々なタスク遂行中に発生するsub-goalsが明らかになってくれば,「このタスクをやる際にはおおよそA, B, C, Dのような4つのphaseを通過すると考えられます」みたいな提案ができますよね。これが事前にわかっていれば,自分の教えている学習者との兼ね合いで準備が必要な部分や,そのタスクに取り組む前にやらせたほうが良いことを前時にやっておくというようなことができるのではないでしょうか。もっと言えば,sub-goalが目標になるような”sub tasks” を用意して,それらのタスクに取り組ませた後のもっと大きなチャレンジとしてsub-tasksが複合的に必要となるような別のタスクを用意するというようなことも考えられます。このように,タスクを構想したり,授業の計画を立てたりする際に,sub goalsが明確になっているということは大事だと思っています。

 

タスク遂行中の介入指導で有益

次は,実際に教室場面での指導において,sub-goalがわかっているということが役に立つ場面を考えたいと思います。あるタスクを与えて,学習者がそれに取り組んでいるとき,なかなかうまく言っていないことに教師が気づいたとします。例えば,複数コマ漫画の並び替えタスクで沈黙してしまっているグループがあったとしましょう。このとき,どのように促せばタスクのゴールに向かえるでしょうか。このときも,sub-goalはヒントになり得ると思います。例えば,5つあるphaseの序盤でつまづいているようならば,「まずは全員の持っている絵について描写して,自分の持っているものと他のメンバーの持っている絵の違いがどこにあるかを特定してみよう」という指示ができると思います。つまり,descriptionとcomparisonというsub goalを明示するということです。その先の,みんなの持っている絵の違いはわかったけど,そこから先に進めないというグループがいたら,「全員の絵の情報を統合して,ストーリーを考えてみよう」という指示も可能でしょう。もちろん,phaseは順番にこなさなければいけないということではありませんが,指針としてその場で与える分には問題ないでしょう。

そんなめんどくさいことしなくても,「じゃあ最初から,『まずは描写,そして比較,あらすじの解釈,並び替え,ストーリーの完成』というphaseをすべて提示してそのとおりにやらせればいいではないか」という意見もあるかと思います。学習者のレベルによってはそうした道筋を示すことも必要になってくるかと思いますが,Bygateは,phaseに完全な順序があることや,まったくoverlappingがないということを否定しています。

it is important to note that the phases do not imply total predictability. For one thing, the phases sometimes occur more than once in a single transcript, with students going backwards and forwards between, say, finding the gist and trying out a sequence (p.160).

また,「たとえsub goalsが明示されなくとも学習者たちは多かれ少なかれphaseを経てゴールに到達する(=予測可能性がある)」ということを言っています。つまり,phaseは与えられなくてもある意味でタスク達成に向かう試行錯誤の中で創発するということですね。それを手助けしてやることはあったとしても,最初からこの通りにやりなさいというのはtoo much interventionかなと個人的には思います。「正しい手順」や「理想的な手順」のようなものがあると学習者が思ってしまい,それに囚われすぎてしまう可能性があるからです。例えば,2. comparisonからいきなり4. sequencingに入ることも十分にありえることです。「まって,私の絵ではりんごは食べかけで,Aくんの絵ではりんごは丸々1つあるから,きっと私の絵はAくんの絵よりあとにくると思う」のような発話が起こることは歓迎されるべきで,「まって順番考えるより先にストーリーをつかもうよ」となってしまっては学習者の自由な発想が抑制されてしまうかもしれません。よって,sub goalを与えてそれに沿ってタスクを行わせることは有効な手立てとは言えません。

つまり,事前に教えてそのとおりにやらせることができるから役に立つというわけではありません。そうではなく,リアクティブな指導がやりやすくなるということです。教師自身がsub goalsを把握した上でタスクを用いれば,そのグループの状況に沿って,またはぶつかっている困難点に合わせてリアクティブに介入を行うことができると個人的には思っています。

事後のフィードバックで有益

sub goalという考えは,事後のフィードバックにとっても有効かもしれません。もしも,時間内にうまく課題を達成できなかったグループがあったとして,そのタスクにおいてsub goalsをいくつ達成できたかという点で見てみると彼らの課題が見つかるかもしれないからです。Bygateの示したデータでは,すべてのグループがタスクを達成したため,「phaseとタスク達成の関係」は完全には明らかになっていません。タスクを達成できなかったグループがいたとして,そのグループがもし仮にすべてのphaseを通過したのにできなかったとすれば,phaseはirrelevantということになります。しかしもしかすると,どこかでつまずいたことが原因でタスクを達成できなかったという学習者がいるかもしれません。絵の微細な点について,描写しなかった(またはできなかった)けれども実はその点が他の絵との違いで,その情報を全員で共有していればタスクが達成できたかもしれないということはありえます。別のケースで,sequencingでつまづいて終了してしまったとします。このときに,follow, precede, come before, come after, first, next, then, before, afterのような前後関係を表す表現がうまく使えなかったので並び替えができなったということがわかれば,その学習者たちに必要なのはこうした前後関係を表現する言語リソースが足りていないということになり,そこがteaching pointになるでしょう。言語面については,varietyが大きすぎて一貫性は見られなかったというのがBygateの結論でしたが,具体的な場面での話に限定すれば指導のヒントにはなるでしょう。

研究への示唆

研究という視点では,このBygateの論文からもう少し発展させた研究が必要だと思います。例えば,他のタスク(意思決定タスクなど)でも同じようにphaseの共通性は高いのかどうかや,同一タスクでタスクの諸条件(複数コマ漫画並び替えタスクにおけるコマの数やグループの人数の組み合わせ)が変わってもphaseに変化はないのか,などが気になっています。

また,Bygateは会話の書き起こしからphaseを導出していますが,そうではなく,教える側があるタスク中に発生すると考えられるphaseを予測し,それがどの程度実際の会話で起こるのかといったこともpracticalな意味で関心があります。

あとは,少し非現実的かもしれませんが,実験的な操作を加えて群間比較するというデザインも思いつきます。たとえば,複数のphaseの中で特定の1つを禁止するような指示を与えてみて,そのグループがどれだけタスク達成に困難を抱えるかを比較することで,タスク達成に寄与しやすい(または必須かもしれない)phaseを特定するというようなこともできるかもしれません。

おわりに

以上,Bygateが提案した,taskのsub-goalという点について,批判的に検討し,その後に,意義があると思われる点についていくつか述べました。やはり,タスクの中身,つまりタスク遂行中に何が起こっているのか,そうしたことを,sub-goalという概念で整理することを試みたことにこの論文の意義があると思います。DSTの枠組みにうまくfitしているかという点についてもやや疑問があったのですが,あまり詳しく批判できるほどの知識を持ち合わせていなかったのでそのあたりはまた別の機会にということにしようと思います。ということで,今回は久しぶりにTBLTに関するお話でした。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

注1. もちろん,仮にオリジナルのストーリーとは違う順番であったとしても,こちらの想定を超えたイマジネーションで別の順序でも筋の通った物語になるということがあれば,そしてそれを説明できれば,「正しい」順番ではなかったとしてもタスクのゴールを達成したと評価することもできると思います。