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Word Onlineを活用したライティング活動

はじめに

最近ライティングの事ばっかり記事にしていていますが,他の授業もちゃんとやっています。ただ考えた事はとりあえずまとめておこうと思うので,今回はコンピュータ上でライティングさせながら”即時”フィードバックを出してみるというお話です。

前期は普通の教室で,紙ベースでライティングをさせていたのですが,後期は情報処理演習室で授業をやっています。学生の数は20人弱で,多分25を超えるようになってくると,一人一人にできるコメントは限定的になってしまうかなと思います。ただ,これも書く時間をどれくらい設けるか次第ですね。書く時間を学生数で割ったのが単純に一人の学生に費やすことができる時間なので,書く時間が長ければそれだけたくさんの時間を学生の書いたものを読んでコメントを出す時間に使えます。パソコンでやろうが紙でやろうが,人数が多いと厳しいですが,同じ人数で比較した場合には私が以下で説明する方法の方がはるかに効率がいいと思います。つまり,授業外で添削にかける時間をできるだけ減らしながら,授業内で学生にフィードバックを出す時間を最大化できるということです。しかも,授業運営ソフトウエアのようなものが整備されていないパソコン室(学生の画面を監視できない部屋)や,学生が個人のパソコンを持ち込んで行うような形態でもできるというのも重要な点だと思います。

背景

パソコンでライティングさせることにしたのは,パソコンで書かせる方が課題の提出,管理,フィードバックがやりやすいなとなんとなく思っていたということが大きいです。そういう思いで,授業にもだいぶ慣れてきた後期から教室を変えてもらうことにしました。

いわゆるパソコン室での授業で,授業運営ソフトウエアが入っているので,学生一人一人の画面を巡回して回ったり,こちら側から操作をしたりということもある程度は可能です。つまり,学生一人一人がMS Wordを使ってオフラインで書いて,それを提出ということもできます。

ただし,それを提出させたり,というところで色々めんどくさいことが起こりそうだなと感じました。また,授業管理ソフトウエアはライティング活動を念頭に置いてデザインされていないため,ライティングのフィードバックにはあまり向いていない(痒いところに手が届かない)というのも,オンライン上で全部一括管理してしまおうという発想に至った理由の一つです。

環境としては大学がOffice 365の契約を結んでいるので,各学生は自分のアカウントでOne DriveやOffice製品を使うことができるという感じです。そうでない場合には,下に挙げた論文でも使用されているGoogle Docsでも同じような事は可能だと思います。

どちらもやっている事は同じで、オンライン上でドキュメントファイルを教員と学生が共有して,授業の時にコメント欄を使ってフィードバックを出すということです。こうしたオンライン上でのライティング活動でフィードバックを出すという話は,以下の論文からヒントを得ました。

Shintani, N., & Aubrey, S. (2016). The effectiveness of synchronous and asynchronous written corrective feedback on grammatical accuracy in a computer‐mediated environment. The Modern Language Journal100, 296-319.

この論文では文法のフィードバックを出す際に,Google Docsを使って即時フィードバックを出す場合と,書き終わってから提出されたものにフィードバックを出す場合で比較を行っています。私の場合,どちらかというとフィードバックはorganizationに関わるものがメインです。「はじめに」でも書きましたが,オンラインでやる方が,私個人としてはライティングの授業における教員の負担がはるかに減ると思っていますので,むしろそちらのメリットを重視してこのやり方を採用としています。

授業前の準備

授業が始まる前にやるのは,学生と共有するファイルの準備です。これをせずに,学生にファイルを作らせて教員と共有するようにすることも可能です。その方が準備の手間が省けますが,ファイル共有の手順でつまづくケースがあって貴重な授業時間を浪費してしまいがちです(実際そうなりました)。そういったことを未然に防ぐ意味で、こちらで準備したものを共有する方がいいでしょう。

また,その他にもファイルを準備するメリットは2つあります。一つ目は,学生から共有されたものはフォルダ等にまとめて管理したりしづらいからです。私が使いこなせていないだけかもしれませんが,共有された側は複数のファイルをフォルダにまとめることができません。できることなら,クラスごと,そして課題ごとにフォルダ分けして管理しておきたいので,こちら側でフォルダ分けを行い,そこにファイルを用意するようにしています。二つ目のメリットは,フォルダ分けして学生のファイルがまとめて入ったフォルダごと共有することで,ピアフィードバック活動に簡単につなげることもできるからです。これについては記事の後半でもう少し詳しく紹介します。

というわけで,One Drive上でフォルダを作ったら,そこにファイルを人数分だけ用意します。何も書き込まれていないドキュメントファイルを人数分作って名前つけるみたいな作業は,ルーティン操作なのでシェルスクリプトとかでやると簡単かもしれません(参考:ファイルの連続コピーについて)。Rでもできますので私はRでやっています(過去記事)。

これでフォルダの中に学生の名前のついたファイルを人数分用意できたので,このフォルダごとOne Driveの共有機能で共有します。共有の方法はメールで送ってもいいですし,LMSなどに貼り付けてもいいでしょうし,いろいろなやり方が考えられるかなと思います。

授業でどう利用するか

学生にフィードバックを出す

授業では,One Driveフォルダの共有リンクを使ってフォルダにアクセスし,自分の名前のついたファイルを開くように指示します。フォルダ内のファイルが全員に共有された状態だと,「誰が誰のファイルを開いているかや編集しているのかがわからないのでは?」と思われるかもしれませんが,その心配はいりません。ファイルを開いた人の記録も,誰が編集したかの記録も残るので,そのことを学生に伝えれば問題ありません(少なくとも私の環境では)。他の人のファイルを開くこと自体は禁じられるべきことでもなく,色々な人の書いた作文から学ぶこともあると思いますし。ただ,「誰が開いたか,誰が編集したかはわかるので,くれぐれも他人のファイルでいたずらをしたり,書かれたものを勝手に消したりしないように」と忠告しておけばいいと思います。場合によっては,ファイルにアクセスした人の一覧を見せれば説得力も増すかもしれません。

学生は自分のファイルを開いたら,指示された課題をファイルに書き込んでいくことになります。具体的に何を書くかやどう書くかは,ライティングの授業で扱う課題の種類や授業の目標によって変わってくるでしょう。

教員は,学生全員分のファイルをブラウザ上でタブ表示にします。つまり,20人の学生がいれば,20個のタブを同じウインドウで開いておくということです。もちろん全部違うウィンドウで開いててAlt+Shift等でウィンドウ切り替えの方が楽だという方はそれでいいと思います。私は,Shift+Tabでタブ切り替えしています。学生が書いている間は,教師は教師用のパソコンで,Shift+Tabキーを使いながら書く学生の書いているファイルを”巡回指導”します。

何かコメントしたいことのある学生がいれば,コメント機能でコメントを書いていきます。文法の間違いなど,場所が特定される場合にはその場所を選択して「正しい形だけ」コメントしています。あとは構成や文と文のつながりなどについて,日本語で書き込んだり,いいなと思う箇所があれば,「この部分はみんなにも真似してもらいたいからあとで全体に紹介するね」みたいなことも書いています。

このやり方が、いわゆる「机間巡視」をしながら出すフィードバックより良いなと思うのは,「学生のライティングを邪魔することなくコメントができる」ということです。つまり、オーラルでのやりとりでは学生が今まさに書いている部分以外にコメントを出す場合、学生は当然教師の指摘を「聞く」ことが求められます。一方でオンライン上では,学生は自分のタイミングでコメントを確認することになります。この、「注意を同時に向ける」ことこそがフィードバックの意義なのかもしれませんが,逆にコメントしづらいなと思うこともしばしばあるので,オンラインで即時フィードバックの方がいいなと思っています。

書いて残るという点でも、口頭でフィードバックするよりも良いなと思います。学生からも、そして教師から見ても、「どんなやりとりがあったか」が記録されるわけなので。学生からしても、先生を呼びやすい人と、あまり自分から呼びづらい人がいると思うので,そういう場合はコメント欄でやりとりすれば良いかなと思います。もちろん,上述したように誰でもファイルを開ける状態ですから,コミュニケーションの記録が残るということはそのやりとりを誰かに見られる可能性があるということではあるのですが(誰かどんなコメントされているかをいちいち見て回るほど暇な人はいないでしょうけど)。

また,1人の学生から次の学生に移動するのも,タブの切り替えは1秒以下で済み,文字の視認性も手書きよりはるかに高いので,瞬時に読んでコメントが出せます。これが紙ベースだと,机と机の移動も時間がかかりますし,さらには書いている学生の紙を覗き込むように見る必要があり,場合によっては視認性の低い手書き文字の場合もあって読んでコメントを出すまでに若干の時間がかかります。このロスを20人分積み重ねれば、20分のライティング中に5分くらいは多く学生にコメントを出せる時間が確保できると思います。

ピアフィードバック活動に使う

教師-学生のやりとりだけではなく,学生-学生のやりとりもオンラインでやることができます。例えば,紙ベースでやっていたときには,過去記事で書いたようなピアフィードバックをやっていましたが,同じようなことはオンラインでもできるわけです。ただ,2人1組で第3者の書いたプロダクトにコメントするようなことはPC教室の性質上若干やりづらいというのはあるかもしれません(実際,私は後期はこの形はやらなくなりました)。

上述したように,個々のファイルではなくフォルダごと共有しているので,学生はクラスメイトのファイルを自由に閲覧することができます。この環境を生かして,「隣の人+◯人のエッセイを読んでコメントをつけましょう」というようなピアフィードバック活動をしています。隣の人を指定しているのは,SlackのDonutというボットでペアで席に座るように指定していて,その他にもペアの活動とかを多く取り入れているからその延長線上くらいの意味合いしかありません。

コメントは,「ここは冠詞のaが入るのでは?」とか「andでつないでいるものの形が揃っていないよ」のような文法的なものもありますし,「これはキーワードだと思うので,1文付け足して少し説明したほうがわかりやすくなると思う」のような内容(あるいは構造)に関するコメントもあります。前期はパラグラフ,後期はエッセイをやっているので,後期はとくにイントロの構成であったり,各パラグラフ同士のつながりであったり,ということに注意して読むように指示することが多いです。

ピアフィードバックのあとには,特に出来が良いものを全体で共有して,「この部分がうまく書けているよね。」というようにモデルの提示をするようにしています。もちろん書く前にサンプルのエッセイはいつも提示していますが,やはり「自分のクラスメイトがよくできている」ということのほうが「参考になった」と感じることが多いのかなというのが私が見ていて思うことです。

現時点での課題

もう秋学期も終わりに近づいていますが,半期をOneDriveとMS Word Onlineを使ったライティング活動でやってきて思うことは,ドラフト作りに対するエフォートが減ったかなということです。もちろん,大学1年生の春学期と秋学期を比べれば,出席率や課題の提出率など,割と一般的にどちらも下がると言っていいくらい普遍的な現象のような気もするので,私の授業スタイル変更が影響を与えただけとは言い切れません。ただ,紙の場合は「授業中になんとか終わらせて出す」という感じで一生懸命やっていた学生も,オンラインだと「今終わらなくても宿題でいいや」,「スマホでいつでもできるし」のようになっているのかなと思うことがよくあります。そして,結局後回しになっても,授業期間以外にファイルを開いて書き込むということをやっている学生の割合が低く,「いつでもできる」と思うからこそ逆に取り組みづらくなってしまっているかもしれないなと思っています。一応こちらからも声掛けをするようにはしているのですが,この点についてはなかなか解決策が見つかっていないので,来年度春学期以降の課題かなと思っています。

おわりに

紙には紙の良さもあって,オンラインにはオンラインの良さもあるとはいえ,今回は紙,今回はオンラインのように分けて使うのも混乱の原因になるので,オンラインの良さを活かした上で,欠点を補いながら授業を作っていければいいなと私自身は思っています。やはり,授業外で添削にかかる時間は膨大なので,それを少しでも減らして授業の中でフィードバックを多く出すというのがオンラインでライティングをすることの一番大きな利点でしょう。この利点はライティングを教える側としてのsustainabilityとかquality of lifeにも関わるので,より良い形でオンラインフィードバックを活用した授業を模索していきたいと思っています。

なにをゆう たむらゆう。

おしまい。

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モデルの提示と意味交渉

学生と英語でやりとりをしていて,正しい形をどう示せば良いのか,また,それと同時にどうやって意味のやりとりをすればよいか,悩ましく感じることがある。

学生同士の交流を目的に,相手のことを知るための質問をたくさんするというようなことをやった時のこと。

沈黙しているペアがいたので,割って入った。

例として与えていたインプットの中に、”Do you like coffee?”というのがあった。

それで,以下のようなやりとりになった(Tは私でSは学生)

T: Do you like coffee?

S: No

T: Oh, you don’t like coffee?

S: えっ,You don’t like coffee

私の意図はいわゆるcomprehension checkのようなものだった。それにもかかわらず,学生は私の発話を修正フィードバックだと受け取ったようで,おうむ返しで私の発言をそのまま繰り返した。

私の言い方がなにか誤りを暗示してしまったのかもしれないが,そんな意図はまるでなかったのでこちらがむしろ驚いた。リピートアフターミー病(いま作った)というか,教師の発話は基本的に正しい形を与える役割で,それをそのまま繰り返せば良いという訓練の成果なのだろうか。

確かに,「なんていうかわからん」と聞かれれば正しい形を与えることもしばしばある。もしかすると,教室内で教師と学生が英語で意味のやりとりをしなければ,上の例のようにモデルの提示的な発話と,単なる意味のやりとりを取り違えたりする必要はないのかもしれない。しかし,有意味なやりとりが圧倒的に足りないほとんどの学生にその機会を保障できるほとんど唯一の場所が教室内であるとすれば,できる限り英語で意味のやりとりをしたい。それが私の英語教師としての信念である。

先ほどの続きは

T: No, no. I just repeated what you said. You did not make a mistake. Okey? So, you don’t need to repeat after me.

S: あっ、なに、そういうこと?はいはい

といった感じ。

続けてちょっとしたギャグで”Do you like beer?”と同じ学生に聞いた。

T: Do you like beer?

S: えー!笑 まだ(20歳じゃないから)飲めんし。(隣のクラスメイトに対して)なんて言ったらいいの?No drink?

S2: can’tじゃない?

T: I know, haha. You can’t drink.

S: You can’t drink.

T: No, no. For me(自分を指して), YOU(学生を指差して) are you, but for you, you are I, so you say “I can’t drink”

S: あー,I can’t drink.

この場面では,「なんて言ったらいいのか」という状態の学生に対して、私は意味のやりとりを続けながらcan’tの使い方(can’t drink)を提示した。私から見れば話し相手の学生は二人称なのでYouとなり,”You can’t drink”と発話したわけだ。それを学生は「”You can’t drink”といえば良い」と勘違いしてしまい,そのままリピートアフターミーしてしまったわけだ。

私がここで、”You should say, ‘ I can’t drink'”と言っていたらよかったのかもしれない。それをそのまま繰り返せば良いからだ。しかしこれではいつまで経っても教師の言ったことをそのままなにも考えずに繰り返すことにしかならない。私の発話が単純な意味交渉の機能を持つことはいつまでも学生に伝わらないし,そうでなければ私の発話の意図や意味内容を理解しようとはしないだろう。

彼らにとって,教師の発話する英語の意味を理解して会話しよう(仮に返答が日本語であっても)という経験が圧倒的に足りないのだ。

私の昨年度までの経験では(あくまで経験)、これも慣れの要素が多分にある。英語が苦手な学習者であっても,英語で話しかけられる経験を積めば積むほど,私の発話が意味のやりとりを目的としていることを理解し(というより私の発話内容により注意を向けるようになり),リキャストのようなフィードバックを出してもおうむ返しをしたりはしなくなったと思う。例えば,過去の出来事に対するライティング課題中のやりとりで

S: センセー私この前温泉行ったんですよー(worksheetにはI go to hot springと書いてある)

T: Oh, you WENT to a hot spring? Where?

S: あーyes, yes I went to Gifu

のような感じである(確かこんなやりとりがあったと記憶している)。教師としては涙ちょちょぎれる(死語?)ような美しきアップテイクである。

ただし,先ほどの例と違うのは,この例の学生はそもそも最初から私と意味のやりとりをしようとしている点である。

どうしても机間巡視している最中は,意味交渉とモデルの提示が入り混じることになってしまうので,混乱を招きやすいのかもしれない。しかしだからといって,ブレイクダウンが発生した瞬間に日本語に切り替えるようなことはしたくない。諦めは大事だが、意味交渉とはブレイクダウンが起こった時にこそ発生するものであるし,私の試行錯誤で彼らにとってのcomprehensible inputを提供できるか否かが決まるわけなので,プロとしてその技を常に磨きたい。

さてあと残り12回しかない授業がどうなるか。毎週火曜はネムレナイ
なにをゆう  たむらゆう。

おしまい。