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「英語教育の今―理論と実践の統合」第7章の記述の誤りを指摘する

週末だけ実家に戻り,ようやく私も例の本を手にとった。全国英語教育学会から先日発行された「全国英語教育学会第40回研究大会紀要特別誌 英語教育の今―理論と実践の統合」という雑誌(というより本?)である。自分の専門に関わるところで気になる記述があったので,ここでいくつか指摘をしたい。無論,この書物自体にケチをつけるつもりは毛頭ないのだが,間違った記述が正しいものだとして広く普及することは避けるべきであるという認識のもと,筆をとった次第。具体的には第7章の2.3の「気づき」の箇所について。以下,pp.184-185にある記述の間違いを指摘しながら,第二言語習得研究でいわれるところのnoticingという概念について説明していく。もちろん,私の理解が間違いであるということも十分に考えられるので,その際にはコメント欄にてご指摘願いたい。

この節の著者は,まず気づき(noticing)や気づき仮説(the Noticing Hypothesis)の定義の確認として,Schmidt (1990)で言及されているconsciousnessの3分類に言及している。ここで,「Schmidt (1990)は,意識を3つのレベルに分けている」という記述がある。これが,この部分の記述の根幹にかかわる決定的な間違いである。Schmidt (1990)では,確かにconsciousnessをawareness, intention, knowledgeという3つにわけて論じているが,これは意識の「レベル」の話では全くない。consciousnessという語を使って議論する場合には,それをawareness (意識),intention(意図),knowledge(知識)の3つの意味で使い分けなければならず,どの意味でconsciousnessを使っているのかを明確にすべきであるという指摘である。つまり,consciousnessという語が包括しうる概念の整理といったところであろう。
よって,このあとの議論において,consciousness as awareness, consciousness as intention, consciousness as knowledgeを意識のレベルとして議論をすることは間違いである。これらはconsciousnessの機能であるというほうが適切だろう。図7.2も完全にconsciousnessの議論を誤って解釈しており,Schmidtをはじめ,第二言語習得研究において気づきや意識といった問題をこのような図で捉えている研究者はいないのではないだろうか。ちなみに,この7.2の図の引用元は未出版の博士論文である。
awarenessのレベルが3つに分けられるというのは,Schmidt(1990)でも言及されていることであり,この記述は正しい。perception(知覚)は常にconsciuosnessを伴うわけではなく,サブリミナルであることもあるというのがSchmidtの主張だ。

次に,Schmidt(1990)を批判的に取り上げた論文として知られる,Tomlin and Villa(1994)に関する記述が見られる。Tomlin and Villa(1994)は,attention(注意)という概念からこの問題に取り組んでいる。この論文の主張の根幹は,attentionの構成要素としてalertness, orientation, detectionという3つを取り上げている点である。さらに,彼らの主張によると,alertness,orientation,detectionのいずれもawarenessがなくとも起こりうるとしている点である。Tomlin and Villa (1994)の重要な指摘は,言語習得にとって必要になるのはdetectionであるが,それはawarenessを必要としないという点である。つまりdetectionにはawarenessが伴うこともあるが,awarenessは言語習得に必須ではないということだ。

著者はここで,Schmidtのいうperceptionと,Tomlin & Villa のいうdetectionは「同義であると考えて問題ない」と述べている。しかしながら,これは大問題である。noticingについて語るとき,絶対にしてはならない誤りをおかしている。つまり,attentionとawarenessという2つの概念をごちゃ混ぜにしているのである。これはSchmidtの提唱したnoticingという概念や,認知科学ではあまり用いられないconsciousnessという言葉を用いたSchmidtが招いたことであるのかもしれないが,attentionは人間のもつ認知資源の方向性(意味に向けるか形式に向けるかなど)のことであり,awarenessはその意識の程度の話である。例えば,同じように言語の形式的側面に注意を向けていても,その際の意識レベルはSchmidtの分類に則るならばperception, noticing, understandingというものが有り得るということである。noticingを測定したという研究でも,実際に測っているのはnoticing as attentionか,noticing as awarenessかのどちらかであろう。

オンラインの測定法に限っていえば,前者の注意の程度(あるいは量)を測る方法として,(a)読解中に下線を引かせる(Izumi & Bigelow, 1999; Izumi, Bigelow, Fujiwara, and Fearnow, 1999; Uggen, 2012),(b)ノートを取らせる(Hanaoka, 2007; Izumi, 2002)(c)視線計測装置(Godfroid, Boers, and Housen, 2013; Godfroid and Uggen, 2013; Winke, 2013; Smith, 2012)などの手法が用いられている。これらの手法だけでは,学習者の注意を分析することはできるが,意識の程度を観察することはできない。一方で,例えば学習者のタスク遂行中の思考を実際に声に出してもらい,それを録音して書き起こして分析するような思考発話法(think-aloud protocol)という手法がある。この手法は,学習者の意識のレベルを測るものとして用いられる。言語形式に関するエピソードがあるかないか,あるいはあったとしてそれがnoticingレベルなのかunderstandingレベルなのかといったように学習者の意識レベルを切り分けていくのである(e.g., Hama and Leow, 2010; Leow, 1997, 2000; Rosa and Leow, 2004; Rosa and O’Neill, 1999)。

このように,attentionとawarenessというのは密接に関連してはいても研究するときには慎重に分けて考えなくてはいけないものなのである。そうであるのにもかかわらず,awarenessとして議論しているSchmidtのperceptionを,attentionで議論しているTomlin & Villaのdetectionと同義と考えるのは,「問題ない」どころか大問題なのである。

p.185の最終段落においては,実践的な活動における気づきに関する記述があり,ここで2種類の気づき「穴への気づき(noticing a hole)」と,「形式への気づき(noticing a form)」の関係が述べられている。自分の伝えたい意味内容を自分のもつ言語知識によって表現できないというnoticing a holeが起こったあとに,その穴を埋めるためのインプットが与えられるとnoticing a formが起こるということのようである。しかしながら,この記述はいわゆるアウトプットが気づきを促進するかを測定する研究(e.g., Izumi and Bigelow, 2000; Izumi et al,1999; Uggen, 2012)でよく見られる気づきの発生に関するものである。よって,noticing a holeがなければnoticing a formが発生することはないともとれるこの記述は誤りであろう。インプット中の言語形式への気づきは,どのような状況においても起こりうるものである(例えばインプットに含まれる未学習の語彙や文法項目への気づきなど)。教師側の働きかけとしては,上記のようなアウトプット→noticing a hole→インプット→noticing a formの指導は一例にすぎないということは最後に指摘しておきたい。

以上,「全国英語教育学会第40回研究大会紀要特別誌 英語教育の今ー理論と実践の統合」の第7章2.3の「気づき」に関する論考の間違いを指摘した。具体的には,(1)consciousnessの機能をawarenessのレベルとして捉えること,(2)attentionとawarenessを混同すること,(3)noticing a formはどのような状況においても発生すること,の3点について指摘した。このあたりの議論はややこしく,見開き1ページで説明するのは非常に困難であったであろうことは想像に難くない。しかしながら,間違った認識に基づく議論が広まることは,学問の発展を妨げるものであることは間違いないだろう。最後にもう一度述べておくが,私はこの書籍が刊行されたことを英語教育研究に携わる者として非常に喜んでいる。また,この書籍を執筆された先生方,刊行に携わった先生方への尊敬の念もやまない。この気持ちは,本記事で指摘した箇所を担当された先生に対しても同様である。私の批判は書かれた内容に対するものであり,いかなる人物への批判でもないことは最後に申し添えておきたい。

最後に本記事で引用した文献を以下に記す。

なにをゆう たむらゆう

おしまい

参考文献

Godfroid , A. , Boers , F. , & Housen , A . (2013). An eye for words: Gauging the role of
attention in incidental L2 vocabulary acquisition by means of eye tracking . Studies in
Second Language Acquisition, 35, 483 – 517

Godfroid , A. , & Uggen , M. S . ( 2013 ). Attention to irregular verbs by beginning learners
of German: An eye-movement study . Studies in Second Language Acquisition , 35 , 291 – 322 .

Hama , M. , & Leow , R. P . ( 2010 ). Learning without awareness revisited: Extending Williams
(2005) . Studies in Second Language Acquisition , 32 , 465 – 491 .

Hanaoka , O . ( 2007 ). Output, noticing, and learning: An investigation into the role of spontaneous attention to form in a four-stage writing task . Language Teaching Research ,
11 , 459 – 479 .

Izumi , S . ( 2002 ). Output, input enhancement, and the Noticing Hypothesis: An experimental study on ESL relativization . Studies in Second Language Acquisition , 24 , 541 – 577 .

Izumi , S. , & Bigelow , M . ( 2000 ). Does output promote noticing in second language acquisition? TESOL Quarterly , 34 , 239 – 278 .

Izumi , S. , Bigelow , M. , Fujiwara , M. , & Fearnow , S . ( 1999 ). Testing the output hypothesis:
Effects of output on noticing and second language acquisition . Studies in Second Language Acquisition , 21 , 421 – 452 .

Leow , R. P . ( 1997 ). Attention, awareness, and foreign language behavior . Language Learning47 , 467 – 505 .

Leow , R. P . ( 2000 ). A study of the role of awareness in foreign language behavior: Aware
versus unaware learners . Studies in Second Language Acquisition , 22 , 557 – 584 .

Rosa , E. , & Leow , R. P . ( 2004 ). Awareness, different learning conditions, and L2 development . Applied Psycholinguistics , 25 , 269 – 292 .

Rosa , E. , & O’Neill , M. D . ( 1999 ). Explicitness, intake, and the issue of awareness: Another
piece to the puzzle . Studies in Second Language Acquisition , 21 , 511 – 556 .

Schmidt , R. W . ( 1990 ). The role of consciousness in second language learning . Applied
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Smith , B . ( 2012 ). Eye tracking as a measure of noticing: A study of explicit recasts in
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Tomlin , R. S. , & Villa , V . ( 1994 ). Attention in cognitive science and second language acquisition. Studies in Second Language Acquisition , 16 , 183 – 203 .

Uggen , M. S . ( 2012 ). Reinvestigating the noticing function of output . Language Learning ,
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Winke , P. M . ( 2013 ). The effects of input enhancement on grammar learning and comprehension: A modifi ed replication of Lee (2007) with eye-movement data . Studies in Second Language Acquisition , 35 , pp. 323 – 352 .

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